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「エマ、愛の罠」”Ema”(2019)

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ema-pablo-larraín-movie-2019 映画レビュー
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「エマ、愛の罠」(2019)

  • 監督:パブロ・ラライン
  • 脚本:ギジェルモ・カルデロン、パブロ・ラライン、アレハンドロ・モレノ
  • 製作:ホアン・デ・ディオス・ラライン
  • 音楽:ニコラス・ジャー
  • 撮影:セルヒオ・アームストロング
  • 編集:セバスチャン・セプルベダ
  • 出演:マリアーナ・ディ・ジローラモ、ガエル・ガルシア・ベルナル、パオラ・ジャンニーニ、サンティアゴ・カブレラ 他

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「NO」や「ジャッキー/ファースト・レディ 最後の使命」のチリが誇るパブロ・ラライン監督の新作。

ある事件がきっかけとなり養子を施設に戻されてしまったプロダンサーの妻が、不能の夫、弁護士とその消防士の夫を巻き込みながら、ある計画を実行していくドラマ。

主役でタイトルでもあるエマを、マリアーナ・ディ・ジローラモが演じ、夫役にはガエル・ガルシア・ベルナルが出演しています。

こちらベネチアのコンペに出品されていたようですね。批評家からの評価はかなりいい作品のようです。

私は劇場のポスター、予告を見て観たくなりました。パブロ・ラライン監督作が好きというのも理由です。

公開初週末ということでしたが、観に行った劇場のスクリーンはちいさめ。人はかなり入っていました。

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チリのバルパライソ。プロダンサーのエマは振付師である夫ガストンと問題を抱えていた。

それは夫の性機能に異常があるため子どもを持てない事、そして以前養子縁組で息子となったポロを失ったこと。

ポロはエマを母として好いていたが、叔母の髪に火をつけたことで施設へ戻されたのだった。

世間は皆、奇抜な芸術家夫婦の教育が悪く、親失格であるとみており、エマとガストンは互いを責めあっていた。

エマはある計画を実行に移すと決心し、ダンサー仲間の協力を集めた。

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これは斬新で挑戦、挑発的な快作、そしてまさに現代をその身体とリズムで躍動的に表現する傑作です。

今作はパブロ・ラライン監督が初めて現在を舞台として撮った作品になります。

ただここでもまたユニークな手法を用い、多面性を持ちながら観客に手綱を握らせることなく、映画それ自体が激しい鼓動を持って観客を扇動します。

エマのようなカリスマ、リーダー性を持ち、また彼女と同じく簡単には定義できず、美しく引き込まれながらも非常に危険で不道徳な感じもします。

だからこそ、どこまでもついていってしまいました。

描かれることについて、エマについて、人によっては嫌悪感を強く持つかもしれません。

そこがハマらなければ、きっとものすごく奇妙で意味不明な作品になるのかもしれませんが、私にはそのリズムが全身を駆け巡ってきて、虜になってしまいました。

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映画の持つ呼吸はそのリズム。

スコアや楽曲のトリップ的な心地よさ。

レゲトンにはまったく詳しくないですが、なぜだかけっこう長く聞いてきたような馴染みを感じてしまい、それが体に流れ込んできます。

しかしその一方で、パトカーのサイレン音が織り混ぜられていて、これまた不穏で危険な感じもするんです。

そしてビジュアル。

バルパライソの迷路のような街並みとネオンカラーによる色彩。

ダンサー含めて衣装などにも色がありますが、エマのブロンドを際立たせる感じで構築されています。

またそこにはアクションがあります。

この作品は全てのコミュニケーションが動きによるものになっていくほどに、ダンスかセックスが大きく作用しています。

マリアーナはダンス経験はなく、今回のためにバレエをはじめ様々なダンスの訓練を積んだようですが、あまりに揃いすぎていないダンスが、エマの独自性や自由さを感じさせます。

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今作におけるバルパライソの街を躍りながら進むシークエンス、そして登場人物全てが代わる代わる登場する、エマのセックスシーンは、色彩含めて白眉でしょう。

行動と身体を通して行われる感情表現。

ポロの行為すらそれだったのかも。

エマはダンスと計画を通して、想いを爆発させます。

ガストンとダンサーでの会話が印象的です。

「良いダンスってなんなの?良い音楽って何?」

これはエマに絶えず向けられる良い母親に重なり、そしてつまるところ”良い女性”に繋がります。

そうした抑圧的な定義に対し、エマは身体で反発する。

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自由に動き、自由に性を楽しみ。ただセックスに関しては奔放さよりも、女性の連帯の強さを感じました。

特に計画手段に直接関わらないダンサーたちとのセックスは、エマの包容力にすら思えます。

既存の価値観を焼きつくすような火炎放射器と同時に、消防車のホースも操るエマには、どこか全能性がある。

性的だろうと劣った文化だろうと、娼婦に見られようと。

型にはめられた”優れた芸術”や”良き女性”になどならない。

そんなエマが最後に到達し見せるかつて見たことのない強烈な母としての愛が痛快です。

こんなの誰が定義できるのか。

エマだけの愛。狂って見えたとしても、間違いなくエマの息子への愛は本物です。

映画自体が生き物のような生命力を持ち、鼓動のリズムを伝えてくる。

ビジュアル、音楽、エマという存在、全てに魅了される傑作でした。

これは本当にオススメです。是非劇場で体験してほしい1本です。

今回の感想はここまでです。

パブロ・ラライン監督はこれからも追いかけたいですね。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

ではまた次の記事で。

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