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「黄金の腕」”The Man With The Golden Arm”(1955)

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映画レビュー
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「黄金の腕」(1955)

  • 監督:オットー・プレミンジャー

脚本:ウォルター・ニューマン、ルイス・メルツァー

原作:ネルソン・オルグレン 「黄金の腕」

製作:オットー・プレミンジャー

音楽:エルマー・バーンスタイン

撮影:サム・リーヴィット

編集:ルイス・R・レフラー

美術:ジョセフ・C・ライト、ダレル・シルヴェラ

出演:フランク・シナトラ、エリノア・パーカー、キム・ノヴァク、ダーレン・マクギャヴィン 他

有名図書であるネルソン・オルグレンの原作を、「ローラ殺人事件」(1944)のオットー・プレミンジャー監督が映画化。これまた特殊な題材を扱い、当時のヘイズ・コードもあってなかなかドギツイ作品となりました。

色々なタブーの中の一つであった麻薬。その中毒を描くこと自体に、プレミンジャー監督への称賛を送りたいものです。

フランク・シナトラの全力のもがき苦しみや白黒の中の演出等素晴らしく。主演男優賞、作曲賞(エルマー・バーンスタイン)、美術賞の3部門でアカデミーノミネートしました。

しかしポスター、タイトルアートが素敵ですな。

フランキーは凄腕のポーカーディーラーで、「黄金の腕を持つ男」として有名だった。しかし麻薬に手を出し治療施設へ。

町へ戻ってきたフランキーは、薬から足を洗い、ドラマーとして立ち直ることを決意。

事故のせいで足が不自由な妻ゾシュは、望みの薄いドラマーより、ディーラーとして稼いでほしいと言い、昔仲間もフランキーを引き戻そうとする。

そして、フランキーに麻薬を与えた張本人であるルイも再び禁断の薬へと彼を誘う。

まず始めに。オープニングタイトル。これだけで好き。このころにしては前衛的だと思う、とても印象的かつスタイリッシュなものですね。

今ではそうでもないですが、当時は触れてはいけない題材であった麻薬。

しかも今作にては注射や禁断症状、発狂までかなり深く踏み込んだシーンが多く、シナトラの眼の演技含めとても強烈な印象を持っています。

私としては白黒ゆえの影の演出が良いかなと。フランキーを縛る賭博場は光が入らず、夜営業の闇そのもの。そしてルイの部屋にての感心する演出。

フランキーが麻薬を打ち、横たわるときルイの大きな影に入っていくんですね。こちらも深い闇に堕ちて行ってしまう危うさが強烈になります。

もちろんエルマー・バーンスタインの音楽も良いですね。ジャズ?調でドラムも感じつつアップテンポで焦燥をあおるスコアです。ここぞと言う場面で力強く、底から湧き上がるように鳴り響いています。

特に印象深かったのは、ルイの部屋。彼が一つ一つ麻薬摂取の道具をだすと、効果音のように音楽がかかりますね。一歩一歩、人は地獄へ下るものです。

シナトラの汗、ふるえる手、そして目の変化が素晴らしいですね。気分が悪い、いら立ち、それぞれの感情に麻薬が原因というだけでなく、フランキーの周囲の人間模様や彼自身の迷いと不安があるのです。その複雑さをシナトラは幅広く見せてくれます。

そう、単に麻薬との対決の話では終わらない作品なのです。

麻薬はフランキー含め、人物たちにある”依存”の一部だと思いました。

ゾシュはフランキーの情の深さにある意味付け込んでいます。事故の記事をとっておくことで、フランキーには繰り返し罪悪感が思い起こされる。

彼女から脱することを、フランキー自身の中で不可能にしています。

ルイにとってフランキーは顧客、ほどほどに餌付けを、そしてスイフカは黄金の腕を手放したくないから、あえて警察に捕まえさせ恩を売る。

モリーとの会話でフランキーは言います。”Everybody needs somebody”「誰しも誰かが必要だ。」

その通り多くの人物がフランキーを必要、もとい彼に依存、束縛しています。

しかしその中で唯一フランキーを支えようとするのが、モリーでしたね。彼女はバーでのシーンでもわかるように、離れて見ている側。

会話には参加せずとも、カメラはフランキーの肩越しにこちらを見ているモリーをとらえます。自分から頼ることはなく、しかし助けを乞う人は支えてあげる、それがモリーなんですね。この点はフランキーと似ている気がします。

そして彼女こそが、フランキーを本気で愛し、真の意味で助けようとしてくれます。禁断症状を最初に乗り越えたのは、モリーがオーディションに関して助言した時でした。

彼女が与えた希望が、麻薬への執着を忘れさせ、ルイの誘いを断らせます。

そしてモリーは自分の部屋(個人が有する絶対空間)を人に明け渡す。フランキーが立ち直ることを真剣に応援し手を貸すのでした。

もちろん本当の麻薬治療はあれ以上なんでしょうが、二人の愛の象徴として、窓から新鮮な空気を吸う姿が、散々空気のこもった雰囲気をもつ本作で一層輝いて見えました。

ゾシュの起こす事件で容疑者になっても、ヤク中でも、真摯なモリーのおかげでフランキーは安易な道へ逃げることを止めます。ゾシュの最後はちょいノワール的ですが、今作は後味にはすっきりとしていると感じますね。

シナトラの迫真の姿に、プレミンジャー監督の確かな腕前が光る一本です。お勧め。

ということでここまでにします。それではまた次の記事で。

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