「時の面影」(2021)
作品概要
- 監督:サイモン・ストーン
- 脚本:モイラ・バフィーニ
- 原作:ジョン・プレストン
- 製作:キャロリン・マークス・ブラックウッド、マレー・ファーガソン、ガブリエル・ターナ、エリー・ウッド
- 音楽:ステファン・グレゴリー
- 撮影:マイク・エレイ
- 編集:ジョン・ハリス
- 出演:レイフ・ファインズ、キャリー・マリガン、ジョニー・フリン、リリー・ジェームズ、ケン・ストット、ベン・チャップリン、モニカ・ドラン 他
俳優であり監督としても活躍するサイモン・ストーンによる伝記映画。
第二次世界大戦前のイギリス、サットン・フーの遺跡採掘をおこない、それまでの考古学的なイギリスの認識を覆す発見に至るまでを描きます。
サフォークの土地を所有していたエディス・プリティ夫人を「プロミシング・ヤング・ウーマン」や「ワイルドライフ」などのキャリー・マリガンが演じ、彼女が採掘者として雇った独学での考古学者バジル・ブラウンを「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」などのレイフ・ファインズが演じます。
その他採掘現場の価値を聞きつけて大英博物館からやってくる作業監督をケン・ストット。
採掘の手伝いに来る夫婦をベン・チャップリンとリリー・ジェームズが、、またエディス夫人のいとこで空軍に従軍するロリー役には「エマ。」などのジョニー・フリン。
イギリスの素敵な俳優たちが揃っておりますが、NETFLIX製作作品であり劇場公開はされず配信でのリリースとなりました。
もともとの原作はジョン・プレストンによる小説なので、実話をそのままに映画化したというわけではないようですが、事実に基づいていることに間違いはないですね。
自分はやはり不勉強なもので、このサットン・フーの発掘という大事件も知らなかったのでもちろんエディス・プリティ夫人のこともバジル・ブラウンのことも知りませんでした。
そうした新しい一面への入り口として結構映画を見ることもあり、単純に役者陣が好きなこともあって今回鑑賞。
後に言いますけど、これ映画館のおっきいスクリーンで観たいやつです・・・
~あらすじ~
ドイツのポーランドに対する挑発が激化し、欧州には第二次世界大戦の緊張が走っている1939年。
イギリスのサフォークに土地を持っているエディス・プリティ夫人は、独学の考古学者バジル・ブラウンを雇って、自身の土地にある丘の採掘を依頼した。
夫人が気になっているという場所をバジルは手伝いの青年たちとともに掘り進めていくと、アングロ・サクソン時代、おおよそ7世紀ごろのものと思われる船が出土した。
大きな船は付近の川からは離れた場所にあり、丸太の上を滑らせて運んだと思われ、さらにただの船ではなく何か位の高い人物の墓でもあるとみられる。
イギリスの歴史認識を覆していく大発見を聞きつけ、大英博物館から現場の保全監督と学者たちがやってくる。
全ての作業を博物館側が掌握しようとするが、夫人は自身の土地であること、バジルが発見者であることから彼を冷遇することは許せず、ともに作業をさせるように頼んだ。
しかし戦争が着実に近づいており、開戦すればこうした文化活動はすべて中止されてしまう。ここにもまた時間との戦いがあった。
感想/レビュー
イギリスの考古学氏において非常に重要なサットン・フーの遺跡に関する研究とか歴史ドラマという位置づけで観ると、ちょっと物足りなく思う作品かもしれません。
初めに言っておくと、そのあたりに関して詳しい人ほどちょっと満足できないのかも?とは感じます。
ある未来をみる女性と、過去を掘り起こす考古学者の友情と絆
ここでサイモン・ストーン監督が描き掘り出しているのはむしろ、エディス・プリティという未来を案じた女性と、バジル・ブラウンという独学でありながらもプロ中のプロであった素晴らしき考古学者、また彼らの友情や絆なんだと思います。
そしてそれは本当に素敵で、心の琴線に触れて響き、その輝きが自分の中のピースとしてこの先生きていく中に残っていくような、そんな宝物を眺めているような美しさを持っていました。
とにかく中心になっておかれているこの二人が、関係性を見ているだけで私はただ幸せでした。
過去の人ですし、役者が演じているのはわかっていますが、彼らを見て記憶にとどめていく行為は本物と思えます。
主演をしているレイフ・ファインズ、キャリー・マリガン。
ファインズはインタビューで答えているのですが、今回バジル・ブラウンを演じることが本当に好きだったのでしょう。
レイフ・ファインズ彼自身も、弟さんと一緒に考古学のフィールドスクールを立ち上げているんですね。
それに彼はこの作品の舞台、サフォークのイプスウィッチ(博物館から使いが来ているシーンもあります。)出身。
かなり個人的なレベルで題材やバジル・ブラウンへの愛情があるんでしょう。
それは演技を見ていればわかりますね。本当に楽しそう。
キャリー・マリガンも弱っていきその存在の小ささを身にしみて感じ悲しむ夫人を熱演しています。
書類や証明のない存在
2人にあるのは、正式な何かを持たないが故の存在のなさでしょう。
エディスはすごく聡明でまた力強いのですが、父に許されずに学を得ることができませんでした。17歳で結婚しあくまで大佐の妻、プリティ夫人でしかなかった。
そしてバジルもまた12歳から働くことしかなく、好きなこと、熱を入れることであるこの考古学や地質学はすべて自分自身で独学している。
両者ともに国家資格とか何か証明書のない力と知識をもっている。示すことはできず、書類で観ると彼らは無に等しいのかもしれません。
しかしその証書がなければ、彼らが存在しないわけではないのです。
バジルは(これまたいい仕事をするモニカ・ドラン)妻のメイのもとに帰った際に、口げんかになります。
おめおめと戻ってきて、博物館側に大事な発掘を渡したと指摘され、バジルは「このサフォークの地なら土を見てどこのものか、どの時代の者かわかる」と叫ぶ。
この徹底したプロフェッショナルさと自信。カッコいいですね。
雨風の際にどうすればいいのか熟知し、すぐ行動できるバジル。
気に入らないことを表に出しませんが、”唾を吐く”という西部の男かというジェスチャーで反抗するのもちょっと可愛らしい。
また切なくはかなげでありながらも我が子のためにと努力し、そしてバジル含めて光の指さないものに光を届けようとするエディスも良いですね。
若干の寄り道
正直言って、後半になるとそのエディスとバジルの絆パートに加えて、いとこのローリー、また若干のフェミニズムも感じる壊れた夫婦関係を抱えるペギーのパートは余計に感じます。
私は前者の二人の物語をもっともっと観たいと思うので。
でもまあローリーには戦死していくもの、そしてペギーは重要なパートでありながら目立たない存在という、作品テーマに沿った属性があるため邪魔ってほどではないですが。
あとリリー・ジェームズのメガネ姿すごいかわいらしいですね。オシャレで似合っています。
まあいろいろと登場人物はいますし、はじめはケン・ストットが分かりやすくうるさ型権力者かと思えば、彼もまた戦争前に遺産保全をしたくて必死な人だったり、みんないいキャラでした。
雄大な空、人間と対比して大きな存在
そして彼らそれぞれが重要でありながら、対比するその船は大きい。
ショットで面白いのは、バジルが横から掘っているものを真上からとるところ。あれだと、まるで真下に向かって掘っているようになっています。
また俯瞰での船の大きさを示すショットも、そして何にしても広大な大地や抜けるような空ですね。なんと大きく、そして人間が小さく感じることか。
撮影はマイク・エレイですが、すごくいい仕事してるなと思います。全体の色彩構成も好みです。
そして雄大なその空を何度か裂いていくのが戦闘機であり、戦争というこれまで個人などチリにしかならないような大きなものも感じさせていますね。
時が意味を失った
しかし、本当に我々は小さな存在なのか。
偉大な遺産や、この大地、戦争、歴史。それらと比べれば結局は何の意味もない存在なのか。
今作はこの点に、エディスとバジルの絆で応えてみせます。
そこに存在したことはその行為、またその想いを向けられたものによって永遠となる。どのような愛と絆があったのか。
遺産そのものよりも重要なのかもしれません。
そこで永遠のために機能するものこそ、保存保持することと想うことでしょう。
バジルは「時が意味を失った」と言いますが、私は映画というものそしてこの映画がまさにそれを果たしていると思うのです。
私達はただスクリーンを見ながら、あっと言う間に1939年にいる。そしてそこにはバジル・ブラウンとエディス・プリティがいますね。
さらにこの作品は歴史においてその行為を正しく評価されるべき人物たちを採掘します。掘り起こされたそれは不滅。儚いものだと思える人間というものを永遠へと押し上げたのです。
若干の寄り道はしていますが、それでもサイモン・ストーン監督は歴史的発見そのものではなくて、そこにいた人というものを、映画という箱舟を使い時から解放し、永遠の存在に見事にしています。
レイフ・ファインズとキャリー・マリガンの素晴らしさも、雄大な撮影による空など含めて非常に楽しめ、これはできればスクリーンで見る機会があればと思う作品でした。
非常におすすめです。
というところで感想は終わります。最後まで読んでいただきありがとうございます。
ではまた次の記事で。
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