「ミラベルと魔法だらけの家」(2021)
- 監督:バイロン・ハワード、ジャレド・ブッシュ
- 脚本:ジャレド・ブッシュ、チャリーズ・カストロ・スミス
- 製作:クラーク・スペンサー、イヴェット・メリノ
- 音楽;ジェルメーヌ・フランコ
- 楽曲:リン=マニュエル・ミランダ
- 撮影:アレッサンドロ・ジャコミニ、ダニエル・ライス、ネイサン・デトロイト・ワーナー
- 編集:ジェレミー・ミルトン
- 出演:ステファニー・ベアトリス、ジョン・レグイザモ、ウィルマー・バルデラマ、キャロライナ・ガイタン、マリア・セシリア・ボテロ、ダイアン・ゲレロ、ジェシカ・ダロウ 他
作品概要
「ラーヤと龍の王国」のディズニーアニメーションが送る新作。外界から保護された街にある、魔法の一族とその中で唯一魔法を持たない少女の家族ドラマ。
監督は「ズートピア」のバイロン・ハワード、また同作で助監督を務めていたジャレッド・ブッシュが努めます。
主人公ミラベルの声を務めるのは、「ショート・ターム」や「イン・ザ・ハイツ」などのステファニー・ベアトリス。
また「ジョン・ウィック」などのジョン・レグイザモが一家を去った主人公の叔父の声を担当しています。
ダイアン・ゲレロやキャロライナ・ガイタンは今作の舞台コロンビアをバックグラウンドに持つ歌手や俳優であり、多くのキャストが移民やその子供などだそうですね。
原題の”Encanto”ですが、意味としては「呪文や魅力」などenchantmentの意味合いがありますが、”sweetheart”=愛しい人の意味もあるそうです。
今作はコロナ禍になりそしてディズニー+の展開が始まってから久しぶりに大きなシネコンでも観ることのできるディズニーアニメになりました。
なんだかんだでシネコンに回らなかったり配信公開のみだったりしたので、大きなスクリーンでディズニーアニメが観れるのも大切なことなのだと実感。
特に、今回は時間の関係上1回目を吹き替えで観たのですが、親子連れがたくさん来ていて。みんなすごく楽しそうだったのですよ。
ちなみに同時上映は「ツリーから離れて」というアライグマの親子を描くアニメでしたが、これが結構素晴らしかったですよ。
本編とことなり2Dアニメでしたが、絵筆のようなタッチなどクラシックなディズニーアニメーションが再来したようで目が幸福でした。
〜あらすじ〜
ミラベルは魔法を使う一族マドリガルの一員。
マドリガル家の人間はみなある年齢になると魔法のギフトをもらう儀式を行い、それぞれにそれぞれだけの特別な力を指すかるのだ。
南米コロンビアの森の中にある街で、一族はその魔法の力を使って人々を助けていた。
しかしミラベルは一家の中で一人だけ、魔法のギフトをもらっていない。それでも彼女は健気に、マドリガルの一員としてみんなの手助けをしていた。
今度はミラベルのいとこが魔法を授かる番になり、儀式を進めている。
しかしその儀式の最中、ミラベルは魔法の家がひび割れていき、力の源であるロウソクが消えかけてしまうのを目にした。
家族はミラベルを信じてくれなかったが、大事な家を守るために彼女は一人で魔法の家に降り掛かっている脅威を突き止めることを決心した。
感想/レビュー
美麗すぎてロケみたいな映像
さすがはディズニーアニメーションということで、その美麗なグラフィックには驚きます。
何よりも良いところは、一定のクオリティへ到達した後、それを毎回超えていくところだと思います。
例えば前作にあたることになる「ラーヤと龍の王国」では、その水の表現がさらに卓越した領域に達していましたが、今作は正直それを越えていると思います。
こんな風に言うのも変ですが、生写真かなと思うような。
実際のこういった風景や植物、生き物が目の前にいて、この町と家が目の前にあって・・・そんな風に、現地を撮影しているんだと錯覚するような圧倒的な画力を持ち合わせています。
長回し風に作っているシーンなどもあり、のびのびとしたアニメーションです。
色彩も非常に豊かで視覚的にも非常に楽しいですが、コミカルさも持ち合わせていて、リアリティラインに変なブレを感じないバランスもしっかりしていると思います。
また規模としては小さい(外へ冒険するわけではないので)ながらも、内に広がる空間だったりミュージカルパートゆえの自由さを最大に活かしているため、けっしてこじんまりし過ぎた印象にもなりません。
ミュージカルパートに関しても、南米コロンビアの熱く活気ある音楽によってかなり盛り上がるエネルギッシュさ。
オリジナル曲はリン・マニュエル・ミランダが作曲担当なので外れるわけはないですね。しかし彼の仕事っぷりには、過労が心配になるくらいです。
「イン・ザ・ハイツ」しかり、楽しい楽曲や素晴らしいメロディのあるところ、彼の名を聞かない方が珍しくなってきましたから。
ミラベルという新しいディズニープリンセス
各要素の素敵さは言わずもがなですが、今作は主人公の造形に関してもまた一歩歩みを進めています。
例えば部隊が南米コロンビアである事とか、人種的な造形に関しては言わずもがなです。しかしこの点に関しては「モアナと海の伝説」などですでに乗り越えては来ていました。
で、周りが魔法を持っているけれど主人公自身には特別な力はないというのも、「アナと雪の女王」がそうでしたね。
ただ、今作のミラベルは眼鏡をかけているんです。
それが何?といったところですが、実は眼鏡をかけた主人公というのは、ディズニープリンセス初めてとのこと。
確かにほとんど多くの場合には、特にアメリカにおけるアニメーションではそこまで眼鏡のキャラクターが主人公であることはなかった気がします。この点は日本の漫画、アニメもそうでしょうか?
サイドキックだったり、ステレオタイプな描写ではオタクキャラや頭の良いキャラクターにこうした眼鏡のキャラがいることが多かった気がしますね。
そういう意味で、眼鏡をかけている子たちがついに自分と同じ特徴をもつディズニープリンセスに出会うことができたというのは、これはまた素晴らしいことだと思います。
個人的には普通にマッチョでかっこいい女性が出てくるというのもまたポイントが高いです。
各キャラクターの個性も、ただ能力というところだけにあらず共感する要素がそれぞれに設けられているつくりになっています。
複数のプロットゆえにやや散漫にも感じる
そこで今作は複数のテーマを描いていくことに到達しますが、実はこの点が私としてはやや散漫に感じてしまった点です。
おおもとに横たわるプロットは、特別なギフト=才能を持たないとされている者がその自らの存在を承認することや、何らかの力を見出していくというもの。
その点はミラベルに与えられている設定からも描かれますが、しかし同時に彼女の叔母や姉妹たちの掘り込みをしていくと、今度は持てる者の責任の話に。
ここはピーター・パーカーのそれにも似ていますし、才能あるがゆえに気を抜くことも自分らしくあることもできない束縛と苦悩が出てきます。
周囲から思われる自分になる必要は確かに重荷です。
しかしそれらが最終的に今作の行きつく先である”愛の力”に対しては相互的な作用はしていなかったように思えます。
コロンビアなのであれはスペインによる征服なのでしょうか?それとも内戦?
いずれにしても結構ヘビーな背景を背負っており、それが厳しい祖母を描写する要素になっています。
そこには家や家族を失う恐れがありますが、しかしこれもまた愛の力という帰結には数ステップ離れていると思うのです。
家族を想うゆえに、厳しくする。家族を想うゆえに無理をして自分ではない自分になる。同じ方向を向いていながらも無理をしていたマドリガルを一度壊して再構成するのがミラベルの役目でしょうか。
しかし、何も持たない者のドラマは、むしろ町の人々の最後の手助けに帰属する気もします。
あそこはコミュニティの美しさや、スーパーヒーローを脱した社会のようでまた素敵ではあるのですが。
真っすぐただ一本のストーリーラインではなく、すこし多方面に枝葉を広げた印象。良いところもありますが、しかし散らばったことも事実です。
圧倒されてしまう映像や楽曲のすばらしさは保障されていますので、見逃すのはもったいない作品です。
私は、親子づれのこどもがED中ずっと音楽に合わせてリズムをとり身体を動かしていた姿をみれただけで良かったと思います。
というわけで今回の感想は以上です。
さいごまで読んでいただきどうもありがとうございました。
ではまた次の映画の感想で。
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