「フリー・ガイ」(2021)
- 監督:ショーン・レヴィ
- 脚本:マット・リーバーマン、ザック・ペン
- 原案:マット・リーバーマン
- 製作:ショーン・レヴィ、ライアン・レイノルズ、グレッグ・バーランティ、サラ・シェクター、アダム・コルブレナー
- 製作総指揮:ダン・レヴィン、メアリー・マクラグレン、ジョシュ・マクラグレン、ジョージ・デューイ、マイク・マグラス
- 音楽: クリストフ・ベック
- 撮影:ジョージ・リッチモンド
- 編集:ディーン・ジマーマン
- 出演:ライアン・レイノルズ、ジョディ・カマー、リル・レル・ハウリー、ジョー・キーリー、ウトカルシュ・アンブドゥカル、タイカ・ワイティティ、チャニング・テイタム 他
作品概要
「ナイトミュージアム」シリーズや「リアル・スティール」のショーン・レヴィ監督が、あるゲームの世界のNPC(モブキャラ)が突然自我に目覚め、そこからそのゲーム世界の存亡をかけた戦いに突入していくアクションコメディ。
主演は「デッドプール」などのライアン・レイノルズが努め、また彼の親友役には「ゲット・アウト」などのリル・レル・ハウリーが出演。
また主人公ガイが一目ぼれするプレイヤーキャラを「キリング・イヴ」などのイギリス俳優ジョディ・カマー、ゲーム会社社員には「ストレンジャー・シングス」のジョー・キーリー、「ブリタニー・ランズ・ア・マラソン」の ウトカルシュ・アンブドゥカル。
ゲーム会社社長のカリスマを「ジョジョ・ラビット」などの俳優であり監督のタイカ・ワイティティが演じています。
2020年の夏公開予定だった作品ですが、コロナウイルス拡大を受けて延期となり、2021年の8月になってついに公開されました。
実はフォックスがかなり前から製作をスタートさせていた作品です。あのブラックリストにも名前があったとか。
ただ、ディズニーによるスタジオ買収もあり現在の配給権が移っており、劇場公開に関しては45日間は独占、その後にはディズニー+でもプレミアムアクセスで観れるようになるらしいです。
スカーレット・ヨハンソンの訴訟もあったりとこのあたり最近はシビアですから、まあ少し公開の事情が変わってきたのでしょうか。
今回は公開の週末ではなくて平日の夜の回で見てきました。都内の映画館ですが、結構混んでましたね。
作品が楽しいので笑いも多く素敵な映画体験になりました。
~あらすじ~
ガイは平凡な銀行員。朝起きていつものコーヒーを飲み出勤し、銀行強盗にあって友達とおしゃべりし家に帰る日々を送る。
そんな彼があるとき通りで運命の女性と思う人に出会う。彼女はサングラス族と呼ばれる市民とは違うカッコいい人間で、ガイにとっては完全に別世界の人間だ。
しかし彼女と出会ったことでガイに変化が起こる。いつもなら何もせずにいた銀行強盗に対して、なんと反抗しサングラスを奪い取るのだ。
そしてガイがサングラスをかけると、いつもの街には武器屋、アイテム、ワープホールや他のサングラス族のレベルなどが見えるようになったのだ。
そう、ガイは知らないが、彼はゲームの中の背景キャラクターいわゆるモブキャラなのだ。
自我を持ち様々な行動を始めたモブキャラに、ゲーム開発部の人間は排除を試みるもうまくいかない。
隠して意図せずにガイはそのゲーム世界を揺るがす存在となったが、同時にゲームは続編のために終末へと向かっており、またその陰である陰謀が渦巻いていた。
感想/レビュー
オタク向けになりすぎずにポップに楽しめる
超楽しみました。本当に劇場で見てて楽しく笑ってワクワクした2時間でした。
この作品にはおそらく結構多くのゲームのオマージュとかあるあるとか小ネタが挟まれているのかもしれません。
自分はゲーム歴としてはPS3の初期くらいまでしか遊んでいなくて、いわゆるGTAとかFPS系他、名のあるフリーワールド、箱庭ゲームはあまりやったことはないので多分ゲームに関しては詳しくない。
そんな自分でも、あのゲームの世界で遊んでいるときの楽しさとか、ほかのプレイヤーを見ているときとかいろいろと思い起こされました。
ゲームファンでいろいろと詳しい人ならもっと楽しいのかもですが、十分だと思います。オタクすぎる感じもなくちゃんと間口広くて面白い。
かといって、決して話題だけでこのゲームという、特に人が入り込みながら他人と交流をするようなタイプの仮想現実を扱わず真剣に愛をもって描いていると感じます。
細かいところで言うと、オンラインで見かけるイカれたスキンを使っているプレイヤーの件がマッチョピンクウサギでネタにされていたり。
よくわかんないけど壁に向かって永遠にジャンプしてる奴がいるとか、ジャンプ中がバグなのかラグってるのかで空中フロートするところとか、いろいろな点にゲームで遊んでる時のあれこれが見えていて楽しかった。
時たまに出てくるゲームの実際の画面とかビデオのあのモデリング感とかも完璧ですよね。絶妙に俳優たちに似ていて、でもしっかりマネキンっぽさがありました。
細部にわたって映像的なワクワクもあり、そして演者と作品トーンが軽いこともあって、あまりオタク向けになりすぎずにポップに楽しめる作品になっています。
ライアン・レイノルズゆえの魅力
全体にライアン・レイノルズののめりこみ具合が感じられる作品でもあります。
彼自身が今作に愛情を持っていると思います。伝わってくるんですよね。非常に楽しそうに演じていました。
ナイスガイになれるしアクションもできるし、どこか軽い感じがあるところ、ライアン・レイノルズゆえの魅力だと思います。
変にシリアスさが出てしまうと、ガイのボコられ具合とか後半の葛藤においてちょっと重くなってしまうでしょう。
そこを彼持ち前の軽快さが上手くマッチしています。
普通に考えると結構ひどい目に合っていますし、正直自分の世界も存在も根底から否定されてしまう事態に陥るわけですから、同じようなデッドプールを見事に演じた彼だから背負えた設定かもしれません。
映画を見ている人と重なるガイという背景
ガイはまさに「レゴムービー」におけるエメットで、「マトリックス」を生きるミスター・アンダーソン。「トゥルーマン・ショー」におけるトゥルーマン・バーバンクです。
自分自身がただの平凡な背景で、世界の中心ではない。
光あるところにも影の中にすらいない。置かれているだけの存在。
何か周りではすごいことが起きているが、彼は関係ない。
現実における、映画を見ている人の大半なんですよね。映画のスクリーンに映ったヒーローを眺めるだけの誰でもない存在。
その事実を突きつけられてしまうのは非常に哀しいですが、彼の存在自体が世界を変えていきます。
彼は特別英雄的な行為をしていないんです。世界を変えようとかではなく、突き詰めて善行を行う。
人助け、猫探し、火のついた人を助ける。コメディではあっても彼が行うのって、結構普通の人が普通に困っている人にやってあげることなんですよね。
だからガイは自分たちだと思えるんです。そしてそれが本当に素晴らしいことで、現実のゲームプレイヤーの心を変える様は爽快です。
背景のキャラがガイの呼びかけに応え皆いなくなって、世界はとても退屈になります。
こうした人間たち、つまり誰しもみんながこの世界を作っているから。特別な誰かがいて世界が成り立っているわけではないんです。
平凡なブルー・シャツ・ガイは私たちですね。
魂ある者としてガイを描くこと
誰でもない存在こそが輝けるというのは割とまああるテーマではありますが、自分としてこの作品が個人的傑作になったのはそこにしっかりとしたロジックと、可能性を秘めた帰結があったことです。
この作品は人工知能の自立と彼ら自身の世界をユートピアとして非常に好意的に描きます。
ガイが現実世界の人間を機能させるための道具には終わらず、魂ある者なのであれば選択できることを決して捨てない。
ここすごくいいポイントです。
また、ガイが自我に目覚めて進化していくことにもしっかりと理由があったのも良かったです。
物語を進めるための奇跡でも偶然でもない。愛をもって生まれた存在だったのです。最高。
仮想でもプログラムでも、瞬間の気持ちと感情、感覚はすべて本物
そして最後に、この作品の描いたゲームという世界が好きです。
比較するものでもないかもですが、「レディ・プレイヤー・1」でのゲームの扱い(結局ゲームしてないで現実でがんばれ的意味合い)があまり好きでなかった自分にはこちらのメッセージが刺さりました。
プログラムであり、設定された動きと会話行動と生活、人生を送っている。そしてそこでの相互作用はただの仮想現実・・・ではない。
そうかもしれないが、その瞬間瞬間の気持ちと感情、感覚はすべて本物だということ。
仮想現実をもリアルと認めて、ゲームがくれる貴重なものを明言して見せています。
ひいて言うと、創造物創作物すべてに言える、人生において欠かせず大切なピースとなる嘘。正面からそれを認めてくれたことに感謝です。
非常にいい意味で軽いライアン・レイノルズ、訛り演技からオタク女子とクールなヒロインを行き来して輝くジョディ・カマー。
どこまでもユーモアを忘れずにずっと楽しくて、最高にゲームへの愛に溢れていて、誰でもない背景のみんなを優しく包む作品。
個人的には今年ベストに入ってくる傑作でした。2021年の映画体験の中で、「Mr.ノーバディ」のようにただただスクリーンを見ていて楽しすぎた映画。
これは是非とも大きなスクリーン、たくさんの人と一緒に笑ってみてほしい。素敵な映画体験ができる作品です。お勧め。
ということで今回の感想は以上になります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
それではまた次の記事で。
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