「ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気」(2015)
- 監督:ピーター・ソレット
- 脚本:ロン・ナイスワーナー
- 原案:シンシア・ウェイド 「フリーヘルド」
- 製作:マイケル・シャンバーグ、ステイシー・シェア、シンシア・ウェイド、ジャック・セルビー、ダンカン・モンゴメリー、ジェームズ・D・スターン、エレン・ペイジ、コンプトン・ロス、ジュリー・ゴールドスタイン、フィル・ハント、ケリー・ブッシュ・ノヴァク
- 音楽:ハンス・ジマー、ジョニー・マー
- 主題歌:マイリー・サイラス ”Hands of Love”
- 撮影:マリス・アルベルチ
- 編集:アンドリュー・モンドシェイン
- 出演:ジュリアン・ムーア、エレン・ペイジ、マイケル・シャノン、スティーヴ・カレル 他
アメリカのオーシャン郡でのレズビアンカップルの行政への訴えをもとにした短編ドキュメンタリー「フリーヘルド」(2007)。
その作品をさらに長編映画にしたのが今作です。
監督には長編はこれで2本目のピーター・ソレット。
カップルを演じるのはジュリアン・ムーアとエレン・ペイジ。その他マイケル・シャノンやスティーヴ・カレルも出演しています。
昨年2015年には、アメリカで最高裁が同性婚を認めると決定し、全州で同棲者の結婚が合法となりましたが、今作ではまだまだ同性愛への理解も進んでいない頃が描かれます。
大きな変革は知りつつも、私はこの2人の話は今回初めて知りました。
公開からすぐ観たものの、満員ってほどではなかったです。ただ、特に終盤にかけては涙する人が多かったです。
ニュージャージー州で長年刑事として働くローレル。男の世界で出世しようとする彼女だが、同僚にも打ち明けていない秘密があった。
彼女は同性愛者であり、しばしば地元を離れてゲイの集会に行っていたのだ。
ある日そこでステイシーに出会う。年の差はあれど、互いに惹かれあいパートナーになる2人。お互いの場所として新しい家に住み始める。
だが、ローレルが末期の肺ガンと診察されてから事態は大きく変わった。自分の死後、遺族年金の受取人をステイシーにしたいのだが、郡の委員会に却下されてしまったのだ。
始めに言ってしまうと、正直怒る人もいるのではないかというか、映画そのものとしての出来の良さにはやはり疑問が残るというのは認めるところ。
主題、構成あたりに関してはすごく・・・うーんと、問題があると思います。ただ、作品はというかメインの2人は好きですよ。
とりあえず演技面に関してはすごく良かった。
今回も病気に苦しむという点で「アリスのままで」(2014)を思わせるジュリアン・ムーア。
年取らないのかと思う、自身も同性愛者をカミングアウトしているエレン・ペイジ。
2人のアンサンブルはホントに良いものですよ。
刑事らしく強いのに、本当の自分は隠しているローレルに対して、等身大で自分を理解しそして一切隠そうとしないステイシー。非常に少ない時間の中で描写としては必要なものを残しています。
その脇で活躍するマイケル・シャノンもすごく良いもので、彼の荒っぽさの中に不器用な感覚も出ていて、慰める役よりは行動する方を優先する性格も一貫しています。
で、良いとは思うのですが、映画の構成上になかなか崩れがあると感じているのです。
実を言うと今作の主役であるはずのこのローレルとステイシー、中盤以降はほぼちょこちょこ出るという感じ。これが残念でした。
主題を複数やろうとしているためか、メインであるはずの2人の物語があまりに描写不足。せっかく素敵な演技でありますし、もっともっと見せてほしい。
女優2人が出れば、それは愛と闘病のお話でしょう。
しかし途中からスティーヴ・カレルの登場で大きく主題が変わったように思えます。
上映中も、これは製作、監督のやりたいことが複数あるかぶつかって入れ過ぎたか・・・?と思っていました。
ブレているような。
スティーヴ・カレルが少しコミカルすぎるのもありますが、彼が出てからは2人の物語よりもやはり同性愛者の権利をめぐる戦いが大きく前に出てきます。
そしてマイケル・シャノンが中心のように活躍し、そこでは刑事ものなテイストが感じられますね。
進めば進むほどに、輝かしく切ないローレルとステイシーの物語ではなく、あまりに極端に正義と悪が分かれた、グレーゾーンの全くない逆に危険に思える戦いの物語になっています。
終盤にかけては、難しいものです。
一気に押し寄せてくる、人の暖かな、そして正しい行動の数々。並べただけともいえるそれは、感動的で感動すべき流れなのですが、だからこそ演出しすぎているように感じます。教科書的にすら見えるほど。
ほんの10年遡ってみても、これだけ理解が少なく与えられるべき権利がなかったこと。
その事実を考えてみること、見せてくれることは良いことです。
ただどうしても、2人の女性の愛の物語を、ピーター・ソレットやロン・ナイスワーナーが彼らのしたい主張で上塗りしてしまっている感じてしまう。
脚本のロンは「フィラデルフィア」(1993)で有名なわけですし、単に同性愛者と法廷、正義の話がしたかったのでは?と思えてくるんです。
とにかく私が感じたのは、その圧倒的に正しい人々の行動や、少し陳腐に見えてしまうほどの正義の勝利はかえって不健全ということ。
そして推し出して主張しても、越えられないほどにジュリアンとエレンの演技の方が輝いていて魅力的であること。
社会映画にするのなら、より難しい部分も研究し、委員会=悪の安易な構造をしない。そして2人の出会いとかは略しましょう。
それか、世界に与える影響は背景程度にとどめておき、ローレルとステイシーの愛の物語に注力してほしかった。
新しい家を2人の世界に変えていくシーンとか、本当に良いんですよ。
だから、出会ってからの1年の間にどんな風に愛を深めたか、浜辺での思い出とかもっと時間をかけて見せてほしいですよ。
打ち出そうとした社会正義が邪魔だと言うほど、2人の演技は素晴らしいという事です。
好きなのに、残念。複雑な気持ちになる映画を観たものです。色々な感想、批評に触れてみることにします。実際の経緯とかも気になりますし。そんなところで感想は終わり。それでは~
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