「サンダーボルツ*」(2025)
作品解説
- 監督:ジェイク・シュライアー
- 製作:ケビン・ファイギ
- 製作総指揮:ルイス・デスポジート、ブライアン・チャペック、ジェイソン・タメス
- 共同製作:デビッド・J・グラント、アラーナ・ウィリアムズ
- 原案:エリック・ピアソン
- 脚本:エリック・ピアソン、ジョアンナ・カロ
- 撮影:アンドリュー・ドロス・パレルモ
- 美術:グレイス・ユン
- 衣装:サーニャ・ヘイズ
- 編集:アンジェラ・カタンザーロ、ハリー・ユーン
- 音楽:サン・ラックス
- 出演:フローレンス・ピュー、デビッド・ハーバー、セバスチャン・スタン、ワイアット・ラッセル、ハナ・ジョン=カーメン、ジュリア・ルイス=ドレイファス、ルイス・プルマン 他
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品で悪役やならず者として登場してきたキャラクターたちが、ひとつのチームを結成し、それぞれの過去と向き合いながら世界の脅威に立ち向かっていく姿を描いたアクション映画。
出演は、「ブラック・ウィドウ」のフローレンス・ピュー、「ストレンジャー・シングス 未知の世界」のデビッド・ハーバー、「キャプテン・アメリカ」シリーズのセバスチャン・スタン、「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」のワイアット・ラッセル、「アントマン&ワスプ」のハナ・ジョン=カーメン、「ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエバー」のジュリア・ルイス=ドレイファスら。
さらに、「トップガン マーヴェリック」のルイス・プルマンが新キャラクターである謎の男ボブ役を演じます。
監督は、映画「ペーパータウン」やNetflixシリーズ「BEEF ビーフ」で知られるジェイク・シュライアー。
脚本は、「ブラック・ウィドウ」「マイティ・ソー バトルロイヤル」などでMCU作品を手がけてきたエリック・ピアソンと、ドラマ「一流シェフのファミリーレストラン」のジョアンナ・カロが担当しています。
日米同時公開となった今作で、日本ではGW連休中の公開とあって洋画の中では目玉作品。MCUの人気もやはり衰えてはいないのか、劇場はかなり混雑していました。
~あらすじ~
暗殺者としての任務に身を投じながらも、最愛の姉を失った悲しみに苛まれていたエレーナ。何をしていても無気力で、心に空いた穴を抱え続ける。
そんな彼女のもとに、CIA長官ヴァレンティーナから極秘指令が下される。
指示に従ってある施設へ向かったエレーナは、同じくヴァレンティーナによって招集されたジョン・ウォーカー、ゴースト、タスクマスターと対峙。そこには記憶を失った謎の男・ボブの姿もあった。
自身の不正の資料と同時に、その裏仕事を引き受けてきた生きた商人であるエレーナたちをも消そうとしたヴァレンティーナ。
抹殺から逃れるために仕方なくエレーナたちは手を組み、そこにエレーナの父アレクセイも駆けつける。
彼らはヴァレンティーナにつかまってしまい、何らかの計画に巻き込まれたボブを救うためにニューヨークへ向かう。
感想レビュー/考察
泥臭くて不完全な人間たちの精神ドラマ
MCUも拡張を続けていて、だからこそその中には善とも悪とも言えない感じのキャラクターが複数存在。その塊を作ることもできるほどになりました。
ミスフィッツたちの集まりでいえば2014年時点からジェームズ・ガン監督によって「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」が展開されてきましたが、あちらはハン・ソロの集まりでやるスターウォーズみたいなもの。
それに対して今回結成されて描かれていくのは、普通に悪行も行っていてその罪悪感や世間からの批判でボロボロの人間たちのドラマです。
予告編でも言われているように、空を飛んだりビームを出したり、魔法を使って戦うこともできない。ただパンチして撃つだけ。
そんな泥臭くて惨めで完全なる曲げ組質の一念発起ですが、派手さは出せないながらもそれなりの工夫からクライマックスを創り出す。そして今作は、精神バトル映画でした。
輝かしいフローレンス・ピュー
OPの掴み、IMAXで鑑賞したのですが、大画面に映されるのが本当に素晴らしい俳優フローレンス・ピュー。彼女がすごく気だるそうで、でも精神的に参っていて。
映画とは俳優が神となる場所、それを思い出しました。
大きなスクリーンに映し出されても、それに耐えうる存在でなければならない。その点でフローレンス・ピューは最高の俳優ですね。
どんなところで切り取っても、その表情演技は見事です。今作は多くの人物が絡み合う作品ですが、やはりエレーナが主人公、フローレンス・ピューは大スターです。
OPではトム・クルーズも驚く、本気のスカイスクレイパーからの大ジャンプ。本人が自分でスタントに挑んだというのが驚き。
その後では「オールド・ボーイ」のワンシーンのような廊下での戦闘シーンもあり、多くのスタントをピュー自身がこなしたそうです。
ボブとの心が通っていくシーン、そのあとでのアレクセイへの心情の吐露、最終幕が完全に精神的な攻略になった際、騒がしいアクションの中でも精神の旅であることに説得力を持たせているのは、フローレンス・ピューでした。
MCU世界の飽和感と虚無感
そんなフローレンス・ピュー演じるエレーナのことを想いながらも、どうにもこのMCUの世界とそこにいる人々についての興味が持てない。
ヒーロー映画疲れというのも間違いなくあるとは思いますけれど、それ以上に根深いなと思っているのが、作品世界や人物の身を案じることがなくなったこと。
何度目かというほどに危機に陥っていくキャラクターたちに、いつの間に再建してんの?と思うくらいのNYC。
これが一番きつかったです。
今作は大きな喪失感とか、無力感をどうやって乗り越えていくのかを描いています。
エレーナは姉ナターシャを失い、アレクセイとも疎遠。仕事に自分を放り込んで紛らわそうとしても、やはり誰もいない家に戻って虚しさを抱きかかえるしかない。
アレクセイも過去の栄光を、ウォーカーは戻らない家族との絆を、ゴーストも孤独を抱えています。そこに過去に酷い人生を送ってきたボブも加わって、セラピー映画の始まり。
現代の誰もが、孤独を抱えていて大きな不安を持っていて、満たされない日々を過ごしている。まさに虚無感。
そんな地に足つけた悩みを抱えている人たちが、人と関わることで癒しを得て前に進んでいく物語。
だからこそ、そのロジックも描きたいことの良さも分かるからこそ、MCUに興味がない状態なのが残念でした。正直悔しいですね。
精神的な世界で派手になるが、身体アクションでの解決は違和感
ちょっと人が多すぎて、そんなにもそれぞれのドラマに関して入っていけていないのも否めません。
特に、過去のトラウマや消したいほどの苦しい思い出について、ビジュアルを用意されている人物もいるものの、それがないキャラクターについては、会話の中での説明にとどまってしまっていたり。
あと、セントリーが強すぎてなんとも言えないのは正直あるとしても、ヴォイドの能力によって精神世界での戦いになるのならば、本当に精神で戦ってほしかったっていうのは正直なところです。
割とそれぞれの力技だったりアクションで解決していますので。精神世界ならば身体的な鍛錬や筋力的な意味での力は関係ないのではないかなと思いました。
心に傷を持っていて、正当なヒーローではない人間たちが新たなアベンジャーズ
ただ、物理的に全員がボブに覆いかぶさり、抱きついて一つの塊になることで状況を打破するというアクションの構築は見事だったと思います。
心の病と向き合うこと。それには一人ではできず周囲の人間との助け合いや関わるということが必要。
大々的なエイリアンとの決戦の先に変わり種として現れたサンダーボルツ。
ネタバレをしますが、サンダーボルツに*がついている理由が映画の最後で明かされます。
*は強調ですが、まだ確定していない意味も。エレーナたちはNYCで人を多く助け、そしてヴォイドから皆を救い出した。
ヴァレンティーナにうまく利用された感じもありつつ、彼女たちがニュー・アベンジャーズなのです。
この辺、公開から1週が立たないくらいですでに海外のビルボードではサンダーボルツ改めニュー・アベンジャーズと書かれた広告があったり、ちょっと種明かし早い気もしますが、延ばしてもしょうがないってことでしょうか。
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