「アバウト・レイ 16歳の決断」(2015)
作品概要
- 監督:ゲイビー・デラル
- 脚本:ニコール・ベックウィズ、ゲイビー・デラル
- 製作:ドロシー・バーウィン、ゲイビー・デラル、マーク・タートルトーブ
- 音楽:ウェスト・ディラン・ソードン
- 撮影:デヴィッド・ジョンソン
- 編集:ジェフ・ベタンコート、ジョセフ・ランダウアー
- 出演:エル・ファニング、ナオミ・ワッツ、スーザン・サランドン、リンダ・エモンド、テイト・ドノヴァン、サム・トラメル 他
イギリス人監督ゲイビー・デラルによる、ニューヨークを舞台として親子3世代を描くドラマ。
デラル監督作品は私初鑑賞でした。
主演には「ネオン・デーモン」(2016)や「The Beguiled/ビガイルド 欲望の目覚め」(2017)などのエル・ファニング。
そして母役に「マルホランド・ドライブ」(2001)などのナオミ・ワッツ、祖母として「テルマ&ルイーズ」(1991)のスーザン・サランドンが出演。
映画自体はずいぶん前に製作されたのですが、なんだか色々あって公開が遅れ、タイトルも変わったのでしたっけか?
まあ日本版タイトルは当初の通りに「アバウト・レイ」になりましたけども。
公開日に鑑賞してきましたが、入りはそこそこって感じでした。クスッと笑ってしまう要素もあル映画でしたね。
~あらすじ~
レイは、母のマギー、そして祖母のドリーとその彼女フランシスと共にニューヨークのアパートで暮らしている。もともと名はラモーナであったが、トランスジェンダーであると自覚して以来は自らを例と名乗り、母も娘を彼として扱うようにしていた。
レイは全ての環境を変え、自分を得るべく、性別移行の治療を受けることを決心。その同意書には両親のサインが必要となる。
レイは気合十分、ホルモン治療を受けてはやくあるべき自分になることを考えているが、母マギーは同意に慎重だった。
感想/レビュー
話全体としては、スゴイドラマ性とか重いものは割と感じず、少しフラットな気もするものでした。
メインプロットが実はトランスジェンダーについてではないことは別に良いのですが、そうではなく、巻き込む人が多く、彼らの人生すら大きく変えそうな事柄ながら、主人公付近の人物にとっての解決で、この作品が終わってしまうからでしょうか。
端にいる人間にはあまり実在と言うか、生きているんだという感覚がないのですよね。
母親として始末をつけていく話
前述の通り、この映画はトランスジェンダーについてというものではありません。
実を言えばレイは終始真っ直ぐで、覚悟が決まった少年です。
エル・ファニングの演技はとても良い感じで、活発かつ年頃の生意気なガキっぽさも出ていました。
アレのサイズ話で逃げるように帰ってしまったり、好きな女の子の前でキョドるとか、やはり女としてみられていてショックを受けるとか、細かなところで切ないシーンはありますが、まあ彼は終始目的地を知った人物でした。
この作品はどちらかと言えば母マギーの物語。
ナオミ・ワッツがヤラかしてた過去のせいで何一つ進めない女性を演じていて、一人娘が消えて息子を持つことに、戸惑い迷うドラマ。
自分のことも整理できていないというのに、母として責任のある決断を迫られているわけです。
しかも、ここでは否応なしに自分の過去と向き合う羽目になるわけで、ドリーに何度も言われるように、逃げるのをやめるしかなくなっていきます。
ナオミ・ワッツ、スーザン・サランドンと、エル・ファニング含めた3世代は確かにいつまでも観ていられるような魅力があり好きでしたね。
散漫になりかけぎりぎりで収束
だんだんと明らかになってくるカオスな関係性。
その全体像を見始めると、少し、レイについては曖昧というか。
彼が終始真っ直ぐであるからこそ彼自身にドラマを感じなくなり、そしてマギーの行く末にフォーカスしていきます。
これ以上行くと散らばってしまいそうなギリギリで、今作はちょっと急ぎ気味のラップアップ。
特に元旦那、その弟とかの動機がイマイチ見えず、あと再婚相手の奥さんとかね、正直彼女の人生もあろうに一方的に介入され過ぎててかわいそうw
NYCという包容力
私としてこの作品で一番力があったのは、ニューヨークの街とあのアパート含めた環境だったと思います。
ニューヨークの描写は若干インディ映画が持っていた理想化されたバージョンにも思えるのですが、包容力でこの映画を包んだ気がしますね。
トランスジェンダー。レズビアン。兄弟と二股。普通なら弾き飛ばされそうな人や人物の関係でも、この街なら浮いてしまうことがないような。
そして、あのアパートはそれ自体がこの3世代そのものみたいでした。
ちょっと複雑に入り組んでいながらも、吹き抜けや開いた扉で、空間が繋がっている。
完全に遮断してしまうことがないのは、レイが人生に絶望しそうになるあのシーンで、レイとマギーが外に出るところでも伺えます。
2人を捕えるカメラの前で、あの玄関のガラスが完全には閉まらないのですからね。
ニューヨークではおかしな関係の人間もまとまれるというのは、レベッカ・ミラー監督の「マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ」(2015)を思い出すものでした。
今作では、息子になった娘と母とその元夫、レズビアンの祖母カップル、元夫の今の奥さんと3人の子供たち、そして母が一度浮気した元夫の弟が、仲良く外食して終わるんですからね。
そういう意味では、結構スゴイ映画だとも思いました。
感想はこのくらいで終わりです。それでは、また~
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