「ある戦争」(2015)

  • 監督:トビアス・リンホルム
  • 脚本:トビアス・リンホルム
  • 製作:ルネ・エズラ、トマス・ラドアー
  • 製作総指揮:ヘンリク・ツェイン、レナ・ハウゴート、オリビエ・クールソン、ロン・ハルパーン
  • 音楽:スネ・ローゼ・ワグナー
  • 撮影:マウヌス・ノアンホフ・ヨンク
  • 編集:アダム・ニールセン
  • 衣装:ルイーズ・ニッセン
  • 美術:トーマス・グレイブ
  • 出演:ピルウ・アスベック、ツバ・ノボトニー、ソーレン・マリン 他

「偽りなき者」(2012)の脚本を手掛けていたトビアス・リンホルムが監督を務める作品。

デンマークからの演出で、アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされました。

主人公を演じるのはハリウッドでの活躍もあり、「LUCY ルーシー」(2014)に出ているピルウ・アスベック。彼は「ゲーム・オブ・スローンズ」にも出ていて有名になってますね。

外国語映画賞ってまあ公開規模は小さいですね。なんとか新宿で見ることができましたが、結構混んでいました。さすがに映画好きって感じの人しかいなかったですけど。

タリバンによる圧政が敷かれるアフガニスタン。それではデンマークからの兵士たちが、平和維持活動のために地雷撤去作業をしている。

隊を率いるクラウスは巡視中に爆発物で部下を失う。そして数日後には地元民のいる地区にて、タリバンからの攻撃を受ける。激しい攻撃の中で負傷した部下を救うため、クラウスは航空支援を要請し、難を逃れた。

しかし、彼は軍法会議にかけられことになる。先の空爆で民間人が死亡したというのだ。

全体の作りはかなりドキュメンタリックですね。手持ちカメラで兵士たちと共に巡視に出かけ、偵察や民間人との接触までしていく。

音楽は不穏な静寂のみで、煽りもしないのに緊張感は絶えず持たされています。

別段スリラーにしようとはしていませんし、何か敵との交戦任務だとかの前提があるわけでもないのです。戦闘しに行くわけではないけど、いつそうなるかはわからない。こういう恐ろしさが感じられました。

最後まであれが敵だ!という敵が出てこないのも、作品の論点に重なって怖いものです。

途中での狙撃でも爆弾を持っている以外に直接の描写は無いですし。しかしあの狙撃後の会話とか、ちょっと兵士たちが壊れてる気がして怖かったです。後々倫理観に関しての話になるのでね。

半分くらいは戦場での描写で、後半に入り今作の命題に突入。

軍法会議です。

ここでついに父は家族に合流するのですが、前に出てきた妻との電話のショットが思い出されました。窓を開けて外に対して交流する妻。そしていざ夫が帰ってきたときに、彼を同じ窓から内に入れる。

ただ夫以外にも、この家には持ち込まれたものがあります。

戦場で家族を守るために戦っていたクラウスですが、家に帰ったときもまた家族を守るための別の戦いが始まるのです。戦場が移ったという事ですね。

クラウスをまつマリアはじめ家族の描写もすごく真摯なものに思えました。家族のそれぞれがそれぞれのやり方で夫や父の不在に対し対処しまた不満を見せていました。

妻はトイレに入るときすらドアを締めず子を見守り、車にも置いていけない不自由さがあります。子供たちも特に長男は荒れ、長女は算数を通して辛さを見せていました。

「偽りなき者」で描き出したことと同じものを今作でも問いかけている気がします。

争われるのは空爆の正当性ですが、本質的にはこの世界に存在し続けている答えの出ない問いへの挑戦ですね。

家族を守るために戦場での任務を遂行していたクラウスですが、その行為が原因で家族が守れなくなる危険が出る。

妻と車で言い合うところでも、カメラの動きでは2人の意見不一致が見えています。妻はやっと帰ってきた夫が必要ですが、クラウスは倫理的な部分で揺れています。

最終的には現実的に、卑怯かもしれませんがクラウスの周囲にとって正しい結果を得ますね。

そもそもクラウスは他人の死を持って家族の生を守る男です。ただ、他人の妻や子供たちを奪うのには覚悟とかそういうものでは対処できません。

子供に「パパは子供を殺したの?」と聞かれても答えは出ませんでした。君を守るためとも言い切れず、またそもそも子供を殺したいわけはない。

ただタリバンに虐殺された子供の足がちらりと毛布からはみだすあの光景が、自分の子の同じようにはみでた足にオーバーラップする。そこでは、クラウスはそっとその足に毛布を掛けてあげることしかできないのです。

覆われる子のどちらが死体になるかなんて、誰にも選べないものです。

やりきれない世界ですが、それに向き合うことになっている人が多くいるのですね。答えなんて出せない中で生きている。ただ考えることをやめては誰も守れなくなってしまう。

トビアス監督はクラウスたちと共に観客を巡視に行かせ、いわゆる「向こうの状況」というのを自然に飲み込ませつつ、戦争だけでなくこの世界が絶えず持つ難題に向き合わせています。

良いところも割ところも、誠実に人間を描き出している作品でした。

というわけで、最近見たものの中では結構重苦しい映画。観終わってもというか一生こういう事は考えなきゃいけないなんて・・・

とりあえずおしまい。公開規模は小さめですがおススメです。それでは~

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