「ベルファスト」(2021)
作品概要
- 監督:ケネス・ブラナー
- 脚本:ケネス・ブラナー
- 製作:ケネス・ブラナー、ローラ・バーウィック、ベッカ・コヴァチック、テイマー・トーマス
- 音楽:ヴァン・モリソン
- 撮影:ハリス・ザンバーラウコス
- 編集:ウナ・ニ・ドンガイル
- 出演:ジュード・ヒル、カトリーナ・バルフ、ジェイミー・ドーナン、ジュディ・デンチ、キーラン・ハインズ 他
「ダンケルク」や「TENET」の俳優であり「ナイル殺人事件」など監督としても活躍するケネス・ブラナーによる、彼個人の幼少期をもとに作られたドラマ。
主人公の少年バディを演じるのは今作が映画デビューとなる新人のジュード・ヒル。
また母の役には「フォードVSフェラーリ」などのカトリーナ・バルフ、父は「フィフティ・シェイズ」シリーズのジェイミー・ドーナン。
その他祖父をキーラン・ハインズ、祖母はジュディ・デンチが演じています。
ブラナー監督の回顧録、自叙伝的な映画として話題でしたが、映画祭でのプレミア時点からも好評で、公開の待ち望まれる作品の一つ。
日本でもついに公開されました。
賞レースとして、イギリスのBAFTAでは英国作品賞を獲得。アカデミー賞にてはすでに7部門のノミネートを果たしています。
ベルファストって、いちおうはイギリスの領土ではありますが、まあ北アイルランドの都市であってそのあたりの関係性が今作でも背景にはあります。私も詳しくないですが、知らなくても楽しめます。
公開は3/25からとのことでしたが、都内で先行上映がやっていたのでちょっと先に鑑賞しました。
しかし先行で観たい人が集まったからか、平日の昼あたりの回だったのにかなり混雑していました。
~あらすじ~
1969年の北アイルランド、ベルファスト。
少年バディはこの町でのびのびと楽しく暮らしていた。
母は子煩悩で怒らせると怖いが大好きで、父は家族のためにイギリスに出稼ぎに行っており、たまに帰ってくるのをバディは楽しみにしている。
学校帰りにはおじいちゃんとおばあちゃんの家により、クラスの好きな女の子にどうアプローチするかや、宿題についてアドバイスをもらっている。
ベルファストは町のみんなが知り合いというくらいに近所付き合いが多く、決して豊かな生活ではなくとも、みなが親しみを持って暮らしていた。
しかし、アイルランドのイギリスへの帰属に伴って、同じキリスト教の中でのプロテスタントとカトリックが分断し抗争が発生。
ベルファストの街でもカトリック教徒の家への襲撃や放火が始まる。
混乱するベルファストで、愛する地に残りたいという母に対し、父は差し迫る危機を考えて移住を検討していた。
感想/レビュー
子どもの視点に織り交ぜられた大人の視点
この作品の構造としておもしろいのは、幼少期の回顧録であるために主な視点はバディというたった9歳の少年のものでありながら、同時に今や大人になっているブラナー監督の現在からの視点も織り交ぜられているという点です。
バディの視点から見ての今作における重要なテーマって、クラスの好きな女の子とどう近づくか(将来は結婚するか)なんですよね。
スタートとしてはまずテストで良い点をとって好きな子キャサリンの隣の席に座ること。
そんななんとも可愛らしい目的をもった幼さがとても輝かしいですが、同時に背景にあるベルファストの置かれた非常に過酷な危機も描き出しています。
これは両親の視点をもって強められるものであり、観客はバディの純粋無垢さと家族の温かみの中でスリリングなテイストもはらみました。
社会的に起きていることの厳しさと、その中での子どもらしさとの同居はタイカ・ワイティティ監督の「ジョジョ・ラビット」を彷彿とさせていました。
ごっこ遊びと投影
とりわけ面白いなと感じた演出は、映画鑑賞についてですね。
劇中では「リバティ・バランスを射った男」、「真昼の決闘」が流れてきますが、どちらもこのベルファストにおける現状を、劇というもので再現しとらえそしてバディが認識していくものになっています。
暴力的な解決をめぐるある町の物語。
ケーンのように父は孤立していきます。そしてあの”Do not forsake me, My Darling”が流れてくる。緊迫したシーンと同時に、どこか子どものごっこ遊びのような感覚もある不思議なシーン。
バディから見た父は、一人正義と愛と家族のために戦うヒーローに見えたのでしょう。
あそこでバディのことを引き込んだ悪友な女の子をしっかりと抱き合う中に入れてあげるなんて暖かな演出もかなり良いですね。
効果的に使われるカラー
映画のシーンといえば、バディ視点からしてカラーの使い方がまた魅力的です。
この映画は全編がモノクロ。
もちろん荒涼としていて寂しいというほどに演出されてはいないものの、ブラナー監督にとっては当時の寒さとか曇天の感じとかは、モノクロの方があっていると判断したそうです。
そんなモノクロ中で、ふとカラーがつけられたものが現れると、それは魔法のように鮮やかで輝くのです。
手法自体は「シンドラーのリスト」などから使われてて珍しくはないですが、使いどころが効果的ですね。
特に家族みんなで「チキ・チキ・バン・バン」を見に行くシーンの楽しさが素晴らしいんですよね。
そもそも映画の中で映画を見ているという構図が好物というのもあるのですが、家族みんなが同じように驚き座席にしがみつき、完成を上げる。
この楽しい思い出自体が、バディにとっては鮮やかな記憶ということですね。
家族それぞれもみんな魅力的に思いますね。
カトリーナ・バルフ演じるお母さんはすごく愛情深いけれど、感情豊かなところもまた魅力で、どちらかといえばシリアス目なお父さんもまたバディを愛している。
特にお父さんは外部に出る機会があるためか、この現状の危機を一番理解していて、家族の意見と守らなくてはという使命とで揺れるこの葛藤がよかった。
ジェイミー・ドーナンの押し殺すような感じ。
やはり訛りがすごくてかわいいくらいのジュディ・デンチも、ちょっとズルしてもいいから要領よく生きろと言わんばかりのおじいちゃんのキーラン・ハインズも、キャストがみんな生き生きしています。
優しさも厳しさもちょっとしたユーモアも知恵も、バディの家族みんながもっていて。ブラナー監督は素晴らしさ全てを家族がくれたと描いているように思います。
個人的なのに、普遍的な温かさ
“Everlasting Love”を歌う町のみんなとのパーティ。
両親の愛し合うメッセージであり、彼らへの愛情であり、そしてこの町ベルファストとそこに住むみんなへの愛を叫ぶ。
時代と社会の分断から、厳しい決断をして去らなければならなかった。
輝かしい幼少期をくれた大切な人と町がそこにある。ずっと愛し続けるから。
大人になった今だからこそ、大人の会話だった父と母の話も、それぞれの苦しかったこともわかる。
そして、何より苦しんだ理由は、何が子どもである自分のためなのかを二人とも必死に考えてくれたから。自分を愛していたから。
かくまってくれたおじさんも。皮肉屋の隣人も。
皆が素晴らしいベルファスト。
ここはバディの故郷であり、ブラナー監督の故郷ですが、この作品を通して自分もここに生きた。
彼のベルファストが私のベルファストになる。
父さん、母さん、じいちゃん、ばあちゃん。みんな愛している。大好きです。
こんなにも個人的な映画なのに、触れる温かさが普遍的。
世界一の町。ベルファストの通りの駆け抜け、暖かな人と家族に触れてほしいです。ぜひ映画館で、この故郷を手に入れてほしい。
かなりおすすめの作品です。
ということで今回の感想はここまでになります。
最後まで読んでいただきどうもありがとうございました。
ではまた。
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