作品解説

実際にイラク戦争に従軍した記憶から描かれる極限のリアル
「シビル・ウォー アメリカ最後の日」を手がけたアレックス・ガーランド監督が、実際の戦場体験をもつ人物とタッグを組んで作り上げた戦争アクション。
共同監督として迎えられたのは、同作で軍事アドバイザーも務め、米軍特殊部隊としてイラク戦争に従軍した経験を持つレイ・メンドーサ。
本作は、彼自身が体験した実戦の記憶をベースに、当時をともに戦った兵士たちへの聞き取りも行ったうえで脚本が執筆されています。
英雄的な活躍や派手な演出よりも、極限状態に置かれた兵士たちの恐怖や混乱、判断ミスまでも含めて描くことを重視しており、戦場の「空気感」を可能な限りリアルに再現しようとしたそうです。
キャスト情報
- ディファラオ・ウン=ア=タイ
「コート・スティーリング」 - ウィル・ポールター
「デトロイト」、「ミッドサマー」 - ジョセフ・クイン
「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」、「ファンタスティック4 ファースト・ステップ」 - コズモ・ジャービス
「SHOGUN 将軍」、「レディ・マクベス」 - チャールズ・メルトン
「メイ・ディセンバー ゆれる真実」、「リバーデイル」
アレックス・ガーランド監督の新作ということもありますが、超体感型の戦争映画というのもあって楽しみにしていました。公開規模自体がそこまでかもですが、なるべくいい劇場で見るべしと思い、今回はドルビーシネマで鑑賞。
結果、ここだけは言いたいのですが、音響のいいスクリーンでの干渉がMUSTです。できるだけ良いところでお願いしたい。配信で観るとか話になりません。
朝一の回で観ましたが結構人が入っていて、男性客メインですが満員レベルでした。
~あらすじ~
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2006年、イラク・ラマディ。
アルカイダ幹部の動向を探るため、アメリカ軍特殊部隊8名からなる小隊が、市街地の一角で極秘の監視・狙撃任務に就いていた。
だが作戦開始から間もなく、敵は彼らの存在を察知。想定を覆す速さで先制攻撃が仕掛けられ、静寂は一瞬にして銃声と爆発にかき消される。
市街地での激しい銃撃戦の末、小隊は退路を完全に断たれ、敵勢力に包囲されてしまう。次々と倒れる隊員、深刻な負傷者の増加。
極限状態の中で、指揮系統は崩れ、通信は途絶え、恐怖と混乱が現場を支配していく。
それでも彼らは、血に染まった仲間を引きずりながら、生き延びるために前進を続ける。しかし、心身ともに限界へと追い込まれた小隊に、容赦ない銃弾が再び降り注ぐ――。
感想レビュー/考察

記憶を原作にした映画という異様さ
人間死ぬかと思った事って少ないですね。
そんな強烈なことを体験すると、防衛本能的に記憶が消されたり思い出せないなんてこともあるらしいですが、多くは鮮明に覚えるはず。
それはそういう状況になると命の危険があるってことを、自分の中でのアラートにするため。
さて、そんな記憶というものを原作にしている映画が、このアレックス・ガーランド監督の最新作。
実話をもとにした映画というのは数多くあれど、人の記憶をもとにして映画を仕上げきるってすごいこと。
実際に従軍した経験のあるレイ・メンドーサを共同監督に迎えながら、記憶を鮮明に呼び覚ました臨場感あるその場での体験をもたらす。
映画は映画館で観るべきものとは思いますが、これはまさにそれを絶対条件とする作品です。
説明しないことで生まれる戦場のリアリティ
記憶をめぐると言っても、その取材対象、語り部は軍人です。その時に持っていた装備や使っていた機器、使用言語や仲間たちとの距離感まですべて鮮明なのでしょう。
その意味ではディテールにはかなりのこだわりを感じます。
一方で、その戦場では仲間と敵しかいない。観客などいない中では説明はなく、ただただ事態に対処していく。
多くの専門用語が出てきますし、銃器も登場しますが、それらに対しての説明はなくともぎりぎり把握できる。しかし把握できないという点もそのまま描くから緊迫感があります。
把握できないのは周りの状況。
いつ何が起きるのか分からない。部屋のどの場所にいても、立っていても座っていても、危険なのか安全なのか。。。そして次に何が起きるのかも分からない。
これは兵士たちが体験していたこと。分からないこと、分かること、それらを線引きしながら観客を兵士たちと同じ立場の戦場へ放り込んでいく。

音が語る暴力性
映画は音楽を完全に排しています。
その分、音響、細やかな音に大きな語り部の要素がありました。
音楽は実はしょっぱなにあり、それは登場人物の(ひとりひとりではないにしても)個性を示す役割があります。
OPには安っぽいエアロビ。唯一の音楽は兵士たちの人間性を示す要素でしょうか。みんなかなり若い人間が多く、精神的なレベルや本来の若い男たちの悪ふざけを象徴する音楽です。
セクシーな女性たちのエアロビ映像に合わせて、彼らの人としての属性をテキパキと描き出しています。
そしてその後急に夜の静寂が包む。真っ暗で朧げなシルエットのみが見えるスクリーンの中で、アメリカ軍は勝手にイラク人の家に侵入し、先ほどまでの静寂が嘘のようにかべをぶち壊していく。
音による緊張や強弱が印象的で、ここではこのアメリカ軍の暴力性がグッと引き立てられます。静か住宅地に、轟音と悲鳴を響かせたのですからね。
人物の感情や事態の変化も音が語る
音の描写ではやはり銃撃戦も特筆するものがありつつ、実はその前の環境音の設計も見事でした。今作はセット撮影らしいですが、セットの外や屋上など実際に俳優陣に向けて音を流していたそうです。
それは雑踏、犬の鳴き声、人々の声などの生活音に始まっていて、あの大家野中あああで待機する兵士たちの体感を、観客に届けています。
さらにその雑踏がジハードを呼びかけるアナウンスと共に大きくなり、と思えば静まり返る不気味さ。ここでも不安や恐怖、現場の情勢変化が音で語られているのです。

身体が覚える戦場の感覚
ふいに始まる銃撃戦。しかし状況が分からないままに乱射状態です。拡充の音の違いがあるのもそうですが、壁への着弾音、そして風を切って頭上や真横をかすめていく銃弾。
全てが凄まじい。思わず身体を縮めて、被弾しないように身を小さくしてしまうような。
映画館の音響設備があってこそ、この恐怖を体感できます。兵士たちと同じく身体がこわばる緊張。
そして、身体の音がまたトドメと言わんばかりに貫いてくる。
これは最初に未確認爆破物が炸裂して、複数人の兵士の主観的な演出が入るシーン。身体的ダメージで音が遮断されている中で、耳鳴りを起こしたり、徐々に周囲の音が入ってくる。
特に印象的なのは、家の中に入ってから大音量でクリアに繰り出されるサムの悲鳴でした。何が起きた?って状況から、次にちゃんと聞こえるのが仲間の悲鳴なのです。
音響効果はすさまじいものがあり、この体験のためだけに劇場に行くべきでしょう。

結局意味不明、イラク戦争を90分で凝縮した構造
さて、体感型の作品ですが、ストーリーがないとか、ただドキュメンタリーライクって程でもないのです。
構成は結構わかりやすく、潜入と待機⇒襲撃と脱出失敗⇒友軍到着と脱出。3幕で綺麗な構成です。見やすい。
それにストーリーラインは実際に個人個人のことはなくても、アメリカのイラク戦争の様相というものは、リアルな現状を記号化することでかなり鮮明になっています。
アメリカ兵たちは仲間を決して見捨てません。なんとしてでも負傷者を守ろうとする。でも、その一方でイラク人の扱いは最低ですね。
まずもって一般家庭に惜しいって平気で基地にしてしまうし、あのイラク人兵士二人の弾除け感が、、、嫌がる二人を先行して外に出すんですが、すぐには後に続かずいったん待ってから出るところとか。
たまにイラク人家族の様子も映されるからこそ、その点のアメリカの嫌なところも入っています。
究極言えば、穏やかなイラクの町に、勝手にやってきて戦闘を起こし、文字通りにめちゃくちゃにして帰っていった。この90分くらいの映画がまさにイラク戦争そのものを語っています。
厳密な理由は示されないし、何を成し遂げたのかも意味不明。それがあの戦争です。
その後のIS台頭などを考えるとあまりに不穏なラスト
最後のストリートに、イラク側の兵士たちが出てくるところがなんか嫌ですね。
賑やかだった普通の暮らしに溢れていた通りが、アメリカが来て去った後には銃を持った男立ちだらけになったってこと。
「ラッカは静かに虐殺されている」などでも語られていますが、アメリカが来て中東の軍事情勢を混乱させたことから、ISのような組織が台頭するきっかけを作ってしまったのですから、皮肉な構成です。
兵士であってもアホなミスをしたり、ウィル・ポールターが演じているような屈強な体調すら、精神が折れてしまい自分から指揮を降りることもある。戦争とはそういうモノ。
現場に放り込むような臨場感で、何が起きたかをそのままに描き出し、途方もない疲労感の後にはただ武力と破壊された日常が残る。イラク戦争そのものを90分に押し込めたような、秀逸な作品でした。
今回の感想はここまで。ではまた。


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