「ホワイト・ボイス」(2018)
- 監督:ブーツ・ライリー
- 脚本:ブーツ・ライリー
- 製作:ニナ・ヤン・ボンジョヴィ、ケリー・ウィリアムズ、ジョナサン・ダフィー、チャールズ・D・キング、ジョージ・ラッシュ、フォレスト・ウィテカー
- 製作総指揮:マイケル・Y・チョウ、ポピー・ハンクス、フィリップ・エンゲルホーン、キャロライン・カプラン、ガス・デアドロフ、キム・ロス、マイケル・K・シェン
- 音楽:チューン・ヤーズ、ザ・コープ
- 撮影:ダグ・エメット
- 編集:テレル・ギブソン
- 出演:キース・スタンフィールド、テッサ・トンプソン、ジャーメイン・フォーラー、スティーヴン・ユァン、ダニー・グローヴァー、アーミー・ハマー 他
ラッパーであるブーツ・ライリーが初監督する、アメリカ電話営業会社を舞台にしたブラックコメディ映画。
主演は「ショート・ターム12」、「ゲット・アウト」、「蜘蛛の巣を払う女」などの注目俳優キース・スタンフィールド。
また、「クリード 炎の宿敵」などのテッサ・トンプソン、「バーニング 劇場版」のスティーヴン・ユァン、「君の名前で僕を呼んで」のアーミー・ハマー、さらにはダニー・グローヴァーらも出演。
2018年のサンダンスでプレミア上映、高評価を得てからの北米では夏に公開。
そのころから観たいなと思っていたのですが、日本公開がなかなか決まらず、結局輸入しての鑑賞となりました。
日本でもAmazonPrimeにて配信中。(12/6追記)
カリフォルニア州オークランド。
叔父の家のガレージに居候するカシアス・グリーンは、必死の職探しの末にリーガルビューという電話営業会社に就職。
しかし、いくら電話をかけても一向に成績は上がらない。
そんな時、先輩社員から、”White Voice”「白人の声」を使うんだとアドバイスを受けたカシアスは、白人特有のアクセントをマスターした声で営業をかけることで大成功、みるみる営業成績を上げていく。
しかし一方で職場の同僚たちは、利益を上げている労働者には低賃金しか払わず、売り上げのほとんどを持っていく上層部へ反抗し、ストライキを計画していた。
珍妙な作品を見たというのがまず大きなところです。
ブーツ・ライリー初監督作品ということですが、これはまたカラーの強いユニークな監督が現れました。
序盤から徐々にぶっ飛んでいき、最終的にはいったい何だこれはという世界へ投げ込まれるわけですが、しかし各所には確実にアメリカ社会への痛烈なパンチが含まれています。
ミレニアル世代の今、キャピタリズムの行き過ぎた企業世界への批判、アメリカの抱える人種差別とそれに基づく社会システムへの怒り。
かなり要素は多いのですが、それをうまいことコメディを交えながらジャグリングして進み、こぼれ落ちそうなところをしっかりと拾いながら最後まで到達する感じが見事です。
だんだんと異常な事態に入っていくわけですけれど、この別世界のオークランドにての状況は、決してただ笑うものではありません。
そこには一定の、他人ごとではない居心地の悪さ、笑いながらも不快になる緊張感が含まれています。
そもそもホワイトボイスもそうですが、後半のパーティでカシアスが強要されるラップも笑えますけど同時にとんでもなくセンシティブかつ人種問題としての核心が突かれています。
圧倒的なクラス格差やら、自主的な奴隷制など笑い事ではないですし、日本でもかなり肌に感じるものですからね。
若者が就職難であり、ほとんど選択肢のない、そして人を人というよりはまさにある種の家畜のように扱う企業形態。
しかも生活までも抱え込んで、人生を巻き込み自発的な奴隷にしてしまう。
生活を人質にとり人生にめっちゃ干渉してくるのってまさに日本企業じゃないですか。
これは笑ってられない・・・
大乱交とコカインパーティ野郎なアーミー・ハマーが実に気持ちよくハマっていて、本人も楽しそうですが、本編はここ以降は急激に転換していきます。
ブーツ監督はスタイルやジャンルを、コメディ、ドラマ、社会派からSFファンタジーへと切り替えながらも、実は冒頭からかなりしっかりと、TVコマーシャルの作りやらホワイトボイスの手法によって種まきしています。
ですので、私としてはこのジャンルの移り変わりが、別映画の切り貼りには見えず、一本真っ直ぐとした筋のあるストーリーテリングに感じました。
カシアスは愛称”キャッシュ(現金)”というように、キャピタリズムに乗っかって突き進んでいきます。
元は叔父さんをウォーリーフリーへと行かせないためでしたがね。
どんどんと戻れないレベルの渦に巻き込まれ中心へ落ちていくわけです。
しかもその判断は、自分が黒人であるというステータスから仕方なくしている。
最終的にはキャッシュはじめ有色人種層は白人のアンクル・トムに成り下がりいいように使われるのです。現実でもこうなっている人多いでしょう。
ブーツ・ライリー監督は人種や格差、キャピタリズムなどを文字通りにビジュアル化し、それをコメディに昇華しつつ笑えない状況だと教えてくれます。
文字通り馬力を手に入れ、生産性がバカデカくなり(意味深)、道具を使うのではなく道具と一体化していく人間(ワークフォース)。
フィジカルなブラックジョークですが、いつの日にか自分のナニが巨大化していないように気を付けなくては。
ホントにぶっ飛んでて、ビジュアルもジョークも楽しく、どこへ行くか予想もできないのに綺麗にまとめ上げてしまう手腕。
フレッシュでユニークな監督の登場として素晴らしい作品でした。
笑っておかせながら、監督自身がインタビューで言ってる通り、観てから色々考えさせられるタイプの映画。
今のところは日本公開はないみたいですが、配信やソフトでもいいので多くの人に見てほしい作品でした。
感想はこのくらいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それではまた次の記事で。
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