「アトミック・ブロンド」(2017)
- 監督:デヴィッド・リーチ
- 脚本:カート・ジョンスタッド
- 原作:アンソニー・ジョンストン、サム・ハート 「The Coldest City」
- 製作:シャーリーズ・セロン、べス・コノ、ケリー・マコーマック、エリック・ギター、A・J・ディックス、ピーター・シュウェリン
- 音楽:タイラー・ベイツ
- 撮影:ジョナサン・セラ
- 編集:エリザベート・ロナルズ
- 出演:シャーリーズ・セロン、ジェームズ・マカヴォイ、ソフィア・ブテラ、ジョン・グッドマン、エディ・マーサン、トビー・ジョーンズ 他
「ジョン・ウィック」(2014)の監督として知られる、スタントマン出身のデヴィッド・リーチ監督によるスパイアクション。「Deadpool2」の監督にも決まっている彼が組むのは「マッドマックス:怒りのデス・ロード」(2015)でフュリオサを演じたシャーリーズ・セロン。
また、共演者には「スプリット」(2016)で多重人格を見事に演じたジェームズ・マカヴォイ、そしてユニバーサルクラシックモンスターリブート「ザ・マミー 呪われた砂漠の王女」(2017)で魅力的だったソフィア・ブテラ。
ちなみに原作は「The Coldest City」というグラフィックノベルのようです。
宣伝での雰囲気から、女性版ジョン・ウィックではないかと期待された本作ですが、中身を開けてみると違ったということで、それが良かった人と残念だった人で評価が別れているようです。共通で聞くのは、シャーリーズ・セロンがスゴいってことでしたね。
公開の週の土曜に観ましたが、けっこう人が入っていました。
ベルリンの壁崩壊が騒がれる1989年。
潜入中のあらゆるスパイの情報が隠された時計が、謎の組織によって奪われ、保有していた潜入スパイは殺害された。
組織の正体を掴み、諜報員リストを手に入れるべく、MI6はローレン・ブロートンをベルリンへと送り込む。既にベルリンに潜入中で、MI6支部の責任者でもあるデヴィッド・パーシヴァルと合流したローレンは、彼と対立しつつも真相解明に突き進む。
事前に騒がれていた、女性版「ジョン・ウィック」というのは、中身としては違いました。そこでガッカリした方もいるでしょう。
しかし、私としてはこちらはこちらで楽しみました。
見終わって思うのは、非常にレフン監督みたいな色彩を持ちつつ、泥臭いアクションで血みどろになるシーンも入る、諜報活動映画。
根幹の部分は「裏切りのサーカス」を思い出すような、はっきりと全体像を見せない陰謀渦巻くお話。ですので、一直線の話にガンガンアクションを盛り込んでいるわけではありません。
はっきりと好みが分かれるのはその部分でしょう。最後の最後まで誰が見方で誰が敵か分からない。全体、そして画面上で起きていることが信じられない。
けっこう硬派なスパイもので、ミステリーが主軸と言っていい作品でした。
そのミステリー部分に関しては、ジェームズ・マカヴォイが見せつける危なさがかなり良い印象で、絶対に信用してはいけない気もしつつしかし何か頼ってしまうような感覚。
また、全体の構成としても私は面白かったと思います。ローレンによって語られるベルリンでの諜報活動。物語の中の物語。
語り手の意思でどうにでも変えることができてしまうわけですから、それも最後のツイストに効いているかと思いました。
その曖昧で謎だらけの感覚をより強めているのが、異常な色彩を持った画面だと思います。
屋外は荒涼とするなかで、レッドやブルーなどのネオンライトが強烈に人物に当てられていて、異界のような、それは甘美でありつつも悪夢のようでもあり。トリップな感覚。
アクション面では、ジョン・ウィックのそれとはどちらかと言えば正反対な印象です。殺しのダンスというべき華麗さを見せるジョン・ウィックに対して、今作のアクションは無骨で泥臭い。
オープニングすぐに出てくるシャーリーズ・セロンの体を見れば分かるものです。痣だらけで切り傷も多く、顔は腫れ上がっている。
今作は肉弾戦が多く、それはある意味女性が主人公の場合は難しいかと思えば、逆に女性だからこそ、そのフィジカルでのディスアドバンテージをカバーしようと戦闘が激しくなります。
もちろんローレンはそこらの諜報員よりは強いのでしょうが、彼女はことごとく急所を狙い、その場で効果のある武器を頭部などに振り下ろす。
綺麗になんてキメてられない。始める前から弱い立場なんだから、そりゃもう何だってします。
今作のアクションでは、とにかくフラフラしながらも、何度も倒れながらも、血をダラダラ流しながらまだまだ戦う。敵もしぶとく、その泥臭い感じがまた良い味を出していると思います。
一番の見せ場である超ロングカット風のアクションももちろん見ごたえがあり、また「スカイフォール」(2012)の香港のナイトファイトのような、映画スクリーンの裏での戦いとか、アパートでのホースを使ったアクションなど、時代設定は古くも、現代的または斬新なアイディアで差別化を巧くしていると思います。
その痛々しいアクションと傷の中で、シャーリーズ・セロンの魅力が輝くのです。
唇は裂け、眼は大きな痣で黒ずみ、ボロボロな顔。
それでも彼女ってふとした瞬間にすごく美しい。何しろあのソフィア・ブテラがすごくおとなしい子猫のようになってしまうわけですから、セロン姉さんの魅力は絶大という事でしょう。
音楽面は予告の段階からわかっていましたが、80年代のヒット曲、またそのカバーバージョンが次々に流れます。
それぞれの歌詞が語る心情や、場面とのマッチングも楽しいですが、音楽はこの作品が持っている寂しさや切なさを強めているような気がしました。
最後の方で、ベルリンの壁崩壊のニュースを流すんですけど、そのあとに音楽部門のニュースがそのまま流れるんですよね。そこで言われているのが、サンプリングの登場。
それってまさに、90年代の始まりの合図に思えるんです。
時代が移り変わる。ちょうど89年。80年代が終わる。最大の混乱であり、スパイの活躍の場だった東西という関係も壁の崩壊でなくなってしまう。
90年代が来たとき、ローレンのようなスパイたちはどうなるのでしょう。サイバー化、テロリズム。もはやかつてのスパイの時代は終わるのです。
それを非常に強く感じさせることで、冷たい時代にしか生きられない彼女たちの、何か哀愁のようなものを感じたのです。
多くの謎が出てきて、観客は霧の中を歩く。正直諜報活動のストーリーとしてはそこまですごく面白いわけではないですが、セロンの魅力と工夫を凝らしたアクションとその見せ方は十分に楽しめるかと思います。色彩も好みですし。
そんなわけで、ちょっと遅れての感想でした。それでは、また~
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