「レスラー」(2008)
- 監督:ダーレン・アロノフスキー
- 脚本:ロバート・シーゲル
- 製作:ダーレン・アロノフスキー、スコット・フランクリン
- 製作総指揮:ヴィンセント・マラヴァル、アニエス・メントル、ジェニファー・ロス
- 音楽:クリント・マンセル
- 撮影:マリス・アルペルチ、
- 編集:アンドリュー・ワイスブラム
- 出演:ミッキー・ローク、マリサ・トメイ、エヴァン・レイチェル・ウッド 他
元々イケメンタイプの俳優のミッキーローク、しかし個人的にやってたボクシングなど色々あって低迷していました。
それが今作ですごい復帰をしたと話題でした。こういう人生の詰まった映画にはどうしても感動してしまいます。重さが違いますよ。
監督ダーレンは「ブラック・スワン」(2010)でアカデミー監督賞にノミネートされるなどし、今年は「ノア」が公開されました。
ランディ・”ザ・ラム”・ロビンソンは80年代爆発的な人気を博したプロレスラー。しかし今では小さな場末の会場で試合をし、想いをよせるキャシディに会いにストリップクラブへ通っていた。
生活のためスーパーでアルバイト、そして頼まれて試合をする。そんなとき彼に、名試合であったアヤットラー戦の20周年特別試合の話が舞い込む。
嬉しく思ったのも束の間、彼は心臓発作を起こし、二度とレスリングはできないと言われてしまう。
この映画はもうドキュメンタリーと言っていいものですね。
ミッキー・ロークの俳優人生が描かれるのはもちろん、プロレスリングというものを切実に描いています。
背中にぴったりくっついて、人物に迫るリングでのカメラは臨場感たっぷり。ロークが役を演じてプロレスを尊敬するようになった、というのにも納得です。
プロレスリング。
それはショー。サーカスです。映画では舞台裏での選手の、どこでどんな技を出すのか、決め技はどれにするかなど話している姿を映します。試合後にはお互いをほめたたえ、感謝し共にプロレスをできることを喜びます。これが現実。プロレスはつまり見世物なのです。
しかしだから他のスポーツに劣るというわけではないのです。
正義、悪、しっかり演じるのはファンのため。投げ合い、叩き合い、血を流すのもファンのため。
その痛みもまた現実です。試合は嘘でも彼らのプロ精神は本物です。
これを観るだけで、プロレスというものがいかに難しく、そして本物のスポーツかが伝わってきます。
そしてランディを通して見えるものはレスラーの行く末。
年老いて傷だらけ、薬を使って試合に出る。そのボロボロの体は使い古されたごっつい肉の塊といっていいです。
彼はサイン会に出ますが、そこが胸の裂けるほどに辛かった。かつての人気レスラー、仲間が痛々しい姿で座り、古いファンと交流しているのです。それがレスラーの現実。
激しく体を使い、派手に過ごしてきた代償は孤独。とにかくなじめず、家族とも距離が出る。
そこにはミッキー・ロークその人まで重なってきます。
かつての人気、乱れてしまった生活。ランディとロークが重なり、彼の演技は演技と思えない真実味を得ています。
最後までダメな男だった。大切な人とのことも失敗してしまいます。
それがこの男。そして彼にはもうレスリングしかないのです。
ランディは結局リングへ戻ります。
外の現実は嘘の試合より辛いのです。試合で受ける痛みは現実ですが、外である現実の方がもっと痛い。ただできることを、支えてくれたファンのために。
冒頭で「パッション」の話が出てきます。そしてエンディングのブルース・スプリングスティーンによる主題歌”The Wrestler”。
彼は人の期待を背負い殴られ痛みを受ける、流れる血が地面に落ち人を喜ばせる。
なんともキリスト的に思えるんですね。
レスリング、レスラー。現実と虚無。そしてランディ=ロークの生き方。
心に刺さり胸が裂けるようなその姿。確かに時代を築き、人を湧かせてくれた彼を観て欲しい、そんな映画です。
私にとってただ愛おしく感謝したい1本です。
ここらで終わります。では。
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