「アイム・ユア・ウーマン」(2020)
作品解説
- 監督:ジュリア・ハート
- 脚本:レイチェル・ブロズナハン、ジョーダン・ホロウィッツ
- 製作:レイチェル・ブロズナハン、ジョーダン・ホロウィッツ
- 音楽: アスカ・マツミヤ
- 撮影:ブライス・フォートナー
- 編集:トレイシー・ワドモア=スミス、シャヤール・ベンサリ
- 出演:レイチェル・ブロズナハン、マーシャ・ステファニー・ブレイク、アリンゼ・ケニ、フランキー・フェイソン 他
「ファスト・カラー」のジュリア・ハート監督が、70年代を舞台に裏の仕事をしている夫の事件に巻き込まれ、赤ん坊を連れて逃亡生活に追い込まれる女性を描いたクライムドラマ。
主演はTVシリーズの「ハウス・オブ・カード」や「マーベラス・ミセス・メイゼル」で実力を示すレイチェル・ブロズナハン。彼女は今作の脚本、製作にも参加しています。
その他「ルース・エドガー」に出ていたマーシャ・ステファニー・ブレイク、アリンゼ・ケニらも出演。
なんとなくTVシリーズにて活躍する俳優陣が揃っているのですが、Amazonスタジオ製作などの配信メインではそうした垣根もさらに薄くなっているのでしょうか。
アマゾンスタジオにて製作されましたので、Amazonプライムビデオにて配信。
私はジュリア・ハート監督の「ファスト・カラー」が結構好きなので、彼女の新作ということで興味がわき鑑賞してみました。
~あらすじ~
1970年代。専業主婦のジーンは夫エディと何不自由のない生活を送って暮らしていた。エディは窃盗で金を稼ぐ犯罪者だが、ジーンは生活のため黙認していた。
ただ一つ欠けていてるのは子どもがいない事。
しかしそんなある日、エディがどこからか赤ちゃんを連れてきて、「この子は俺たちの子だ」と言い出し、ジーンは文句は言わずにその子をハリーと名付けて育てることにした。
しばらくしたある夜に自体は急変する。
エディの仲間が家にやってきて、隠してあった金をジーンに渡し、赤ちゃんと一緒に今すぐ逃げろと言うのだ。
言われるままに次はエディの友人カルと共に、用意された家に避難したジーン。
赤ちゃんの世話をしながら、エディに何があったのか、そしてこれからどうなるのか分からないまま時が過ぎていく。
感想レビュー/考察
ジュリア・ハート監督の前に観た作品「ファスト・カラー」は近未来のフェミニズム映画でしたが、今作は時代物。
といってもまあ70年代に舞台は設定されていますが、アプローチや視点はちょっとスティーブ・マックイーン監督の「ロスト・マネー 偽りの報酬」に似ているかもしれません。
泥棒、犯罪者の男ではなくその妻が主人公。そして今作はその犯罪行為そのものに一切からまず、受動的に、振り回される形でジーンとその周囲の人間を描き出してくのです。
視点は初めから終わりまで、レイチェル・ブロズナハン演じるジーンのもの。彼女に寄り添い、彼女が知らないことは一切こちらも把握できません。ある種の共同監禁状態に陥った中ですね。
エディの素性も過去も現在も、自分の現在地もこれからも全く見えてこない不安の中で、赤ちゃんを気にかけていくのはかなりスリリングな設定でした。
情報の絞り込み方がここまで巧いと、どうも自然にジーンに感情移入していきますね。
そして、ジーンを助けてくれるカルやテリーもまた、この騒動の中心におらずその外延部に存在する人物たちです。
だから全員、とばっちり状態。
能動的になにか動いたわけではないのに、命の危険にさらされていく理不尽さが、みんなを繋いでいきます。
ジーンはOPすぐ、商品タグがまだついている服を着ています。これはエディに与えられたもの。
そして卵料理に失敗することや後の隠れ家での卵割りなどの描写、また自分で後にカルに打ち明けますが、彼女は不育症を抱えています。
無力感をすごく感じてしまうのです。
与えられるだけで、与えることができず、ただ状況もわからずに保護され移動するだけの存在。
かなり弱々しくどちらかというと無垢(無知に近い)、エディのしていることを知りながらもあえて口を閉ざしていたジーン。
そんな彼女がハリーのためにどんどん母になっていきそして能動的に行動するサバイバーになっていく様がカッコいいです。
この転換の部分とか、不利幅広く表情を変えていく主演レイチェル・ブロズナハンが本当に素敵でした。
ナイトクラブではハリーの靴下を握りしめ、それはまるで安心材料でもありながら、同時に自分を奮い立たせるようでもありました。
どんどんと受動から能動に変わっていくジーン。彼女がそこで攻撃するのは理不尽な連中だけです。
同じように振り回され続けた被害者側としてのカルやテリーは逆に守ってあげようとしていきますね。
そもそもの始まりはジーンとは関係ありません。
エディやマイクなどのワルが、昔から荒らしまわった様々な人の人生。カル、テリー、そして今回はジーン。
ジーンが暗部に突き進んでいき、ついに自らの手で根源を立とうとする流れは力強くもありますが同時に自分の手を汚していくことになります。
それでもジーンは全てを断ち切る。彼女はエディとは違う。無垢な存在を巻き込みません。
ハリーもポールも完全に今回の一件から隔離し過去から切り離す。
ただ巻き込まれてきた人間たちを、それまで受動・被害者的な立ち位置だった女性が解放していくのは「ファスト・カラー」にも通じる部分なのかと思いますね。
70年代で犯罪ものではあるのですが、向けられる視点が非常にユニーク。
ほとんどの作品ではおそらくエディやマイクが主軸になり、ジーンらはトロフィー的におかれるだけでしょうけれど、ジュリア・ハート監督は彼女にこそスポットライトを当てました。
ポールもハリーも、実の子ではない存在ですが、テリー&カル、そしてジーンこそ彼らを本当の意味で守り救う素晴らしい親でしょう。
なかなか面白い視点から語られる丁寧な作品。レイチェル・ブロズナハンの演技が光る秀作でした。
Amazonスタジオの作品くらいしか自分は配信メイン作品を追えませんが、こうしてすごく良い作品に出会えることも事実。
この先も劇場メインでガンガン観れるか分かりませんし、プライムビデオは発掘していきたいものです。
今回の感想は以上になります。
こちらおススメですので、アマプラ入っている方は是非。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それではまた次の記事で。
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