「聖なる証」(2022)
作品概要
- 監督:セバスティアン・レリオ
- 脚本:セバスティアン・レリオ、エマ・ドナヒュー、アリス・バーチ
- 原作:エマ・ドナヒュー『The Wonder』
- 製作:アンドリュー・ロウ、エド・ギニー、ジュリエット・ハウウェル
- 音楽:マシュー・ハーバート
- 撮影:アリ・ウェグナー
- 音楽:マシュー・ハーバート
- 出演:フローレンス・ピュー、カイラ・ロード・キャシディ、トム・バーク
「ナチュラル・ウーマン」や「ロニートとエスティ 彼女たちの選択」のセバスティアン・レリオ監督が、エマ・ドナヒューの小説を映画化したもの。
4か月もの間食事をせずに生きているという奇跡の少女と、彼女を観察するために呼ばれた看護師のドラマです。
主演は「ブラック・ウィドゥ」や「ミッドサマー」などの偉大なるフローレンス・ピュー。
奇跡の少女とされる女の子は、カイラ・ロード・キャシディ。彼女はまだまだ出演作も少ないものの、今作の演技で大きな注目を集めているようです。
その他、イギリス人記者を「Mank/マンク」のトム・バークが演じています。
チリを代表する映画作家のひとりであるセバスティアン・レリオなのですが、新作はNETFLIXでの制作と配信での公開となりました。
監督も主演も好きなので早く観ようと思っていたのに、いろいろあってのびのびに。やっと見たので感想を。
~あらすじ~
1862年のアイルランド・ミッドランズ地方。
イギリスから看護師であるリブ・ライトが派遣されてくる。現地の委員会は彼女にある少女の観察を命じたのだ。
その少女アナは、4か月もの間一切の食事をとっていないのにも関わらず、健康状態に異常のない奇跡と呼ばれる存在だった。
果たしてそれは奇跡なのか、何らかの要因で栄養を得る手段を得たのか、それともひそかに食事をしているただのペテンなのか。
リブはアナの観察を進めていく中で、少女の秘密を解き明かそうとする記者と出会い、またアナの家族の行動を注視する。
そして同時に、彼女自身の過去の出来事にも対峙していくことになる。
感想/レビュー
物語の中の物語
この作品はすごく変な始まり方をします。
そこで示されるのは映画のセット。サウンドステージ内に骨組みがむき出しで映される。
カメラはパンしていきながら、謎のナレーターは「ここから物語を見せていく。その中の人物たちはそれぞれの物語を心から信じている」と言います。
するとセットの中に食堂が映し出され、今作の主演フローレンス・ピューが食事しているという、シームレスに現実と虚構の境界線をまたいでみせるのです。
今作の全てがここで語られていると言ってもいいのかもしれません。
この映画とはそれ自体が物語であり、そしてここではさらに1800年代の物語を話し始めますよという物語が入っている。
なかなか突飛なOPでした。
加虐に利用される物語と信仰
さて、実際の物語というと、そこにはレリオ監督が「ロニートとエスティ」で描いたような、物語というか信仰と個人の話があったと思います。
アナは食事をしているのか否か、この点は序盤から中盤にかけてはあくまでミステリーとして展開されます。
正直その点についてはやたらと家族が怪しいとか、土地の人間たちが”奇跡”を否定するリブに対して厳しい姿勢が見せられていきます。
そこからにじみ出るのは、聖なる物語への執着。信仰がもたらす鎖でした。
自分の求める物語で個人を縛る
地元の委員会のおじさんも、アナを奇跡の少女として享受したい感が出まくってましたし、いろいろな訪問者も彼女を聖なるものだとしたい。
それによってアナから何か恩恵を、奇跡を受けようというわけですからね。
もはやアナが奇跡なのかはどうでもいいんですよね。
結局自分たちにとって都合よく心地よい”天からのマナで生き続ける聖なる少女”の物語が欲しいだけなのです。
その一方で、まあ言ってしまえば記者であるウィルも記事という物語のネタを探している。
ただ、信仰はアナを食い物にしています。
彼女の身に起きた加虐。
それから守るどころか罪として押しつけ、その贖罪として聖なる犠牲を強いる。
やはり偉大なフローレンス・ピュー
リブですら、過去の記憶からアナを救うという物語を自分への癒しとして求めている気がしました。
ちょっと安易というか都合よくも感じてしまうのですが、幼い子をなくしてしまったリブの中の母性が、アナに向けられているという流れですね。
正直このあたりのミステリー的な要素も、リブのやや強情に感じるスタンスも、ドラマ部分だけ見ればそこまで盛り上がらない気がします。
でもここはフローレンス・ピューが、彼女自身がドラマチックさをくれたと思います。
看護師としてのプロ意識でのちょっと硬い感じとか、でも欲求がある点。
亡くした子を繰り返し思い出す行為など、彼女の演技によってレイヤーが重なり深みが増しています。
人間は誰しも物語を必要としている
最終的には監督の作家性?に還った印象です。
ある集合体にて被害者として囚われるものが脱出する。
ただやはり、リブにはアナを救うという物語が必要だったでしょうし、そしてアナには幸せに両親を持つナンの物語が必要で。
リブは悲しみを背負ったかのようにいつも青い衣装を着ているのが、最後のイギリスでは暖かなレッドになっていたのも印象的です。
またこの実話は奇跡のような伝わり方をしているのですが、やはりそこにも物語を別の視点で捉える目線をもたらしたと思います。
最後はスタジオに戻っていく点も含めて、そのままでは飲み込みづらいかもしれない作品。
ただ流石にレリオ監督の作り込みやフローレンス・ピューの演技もあってのめり込んで楽しむことができました。
せっかく景色とか撮影面も良かったので劇場でも見たかったですが、とりあえずNETFLIX配信のみ。加入されている方はご鑑賞を。
というところで以上。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ではまた。
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