「ダンケルク」(2017)
- 監督:クリストファー・ノーラン
- 脚本:クリストファー・ノーラン
- 製作:クリストファー・ノーラン、エマ・トーマス
- 製作総指揮:ジェイク・マイヤーズ、グレッグ・シルバーマン
- 音楽:ハンス・ジマー
- 撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
- 編集:リー・スミス
- 出演:フィン・ホワイトヘッド、バリー・コーガン、トム・グリン=カーニー、ジャック・ロウデン、ハリー・スタイルズ、アイナリン・バーナード、マーク・ライランス、キリアン・マーフィー、ケネス・ブラナー、トム・ハーディ 他
「ダークナイト」シリーズや「インターステラ―」(2014)などで知られるクリストファー・ノーラン監督が初めて実話を基にした作品。
第二次世界大戦の中で行われた、ダイナモ作戦、ダンケルク撤退戦を描いた作品となっており、実話ベースかつ戦争映画と言う題材はノーラン監督の手腕と共に大いに期待されましたね。
予告だけでも撮影の壮大さやそれを映し出すIMAXなどが推されていましたが、公開後はその点以外の点で以外にも意見が分かれた作品。
出演は青年からおじさんまで良い男ばかり・・・えーと、ケネス・ブラナーやマーク・ライランス、トム・ハーディにキリアン・マーフィーなどが出演のほかに、若手としてフィン・ホワイトヘッド、アイナリン・バーナードも出ており、ワン・ダイレクションのハリー・スタイルズが映画出演デビューをしています。
公開時にIMAXで鑑賞し、やはりノーラン監督は一般にも少しは認知されているのか、けっこう満席に近い状態で観ました。
公開時にはいろいろと意見が分かれており、よく分からないと言っていたひとも周りに結構いました。公開後割とすぐ、アイドル映画的な熱も感じましたね。
1940年、第二次大戦の初期。連合軍はドイツ軍によってフランスのダンケルクへと追い詰められていた。
陸からは確実にドイツ軍の戦車が迫り、兵士たちは船で脱出するため、海岸へと退避する。
しかし、ドイツ軍は空からも襲いかかり、海岸で整列する隊や彼らを迎えにくる駆逐艦に空爆をしかけていた。さらに、海に出たとしてもUボートからの魚雷が船を襲い、状況は絶望的なものだった。
刻一刻と迫る包囲網の中で、兵士たちは運命を待つしかなかった。
個人的にはすごく良かったと思った作品でした。
いままで世間ほどはノーラン監督作品にノレなかった私としては、彼の監督作品の中でも最も好きな作品ではないかと思います。
そしてそれ以上にひとつの映画として、その観客に対するアプローチが好きな作品でもあります。
まずはビジュアルや技術の面での圧倒的な力は絶対に見どころであると思います。
IMAXでの没入感とすさまじい音響に関しては、本当に映画館で観て良かったと思います。
CGを使わずになるべく実物、本当に人間を配置して撮影されたスケールの大きさ。ただそれだけではなく、画面構成におけるこだわりもすごく、ホイテ・ヴァン・ホイテマの撮影は全編を通して見る人をスクリーンに釘づけにするものでした。
遠近を押し出すような、カメラの目の前、というかほとんどくっついた状態にひとつ人物や戦闘機の機体を置き、ずっと奥にまで広がる奥行きとその先の対象物をとらえる。
かなり画面の構成にはフェティシズムを感じる作品で、個人的には「広大な土地、もしくは海や空に、確実に向こうから迫る何か」を意識するようでおもしろかったです。
ハンス・ジマーの音楽に関しても、迫りくるという点で時計の音を使うスコアも良いですね。
あと、沈没や水関連では、音が途切れ途切れになったようなスコアを使っていますが、これも水位が迫って息ができなくなっていくものを表すようで巧かったと思います。
ですが、私がダンケルクで好きなのは、その高い技術面(もちろんそれにも圧倒されましたが)ではないのです。
いうなれば演出と脚本の部分です。
映画として純化されているというか。いままでの作品では結構説明をするようなセリフも多かったノーラン監督ですが、今作では台詞もかなり少なく、それでどころかキャラクターの名前やバックストーリーも表立って紹介されることはないのです。
この演出の面でも分かりにくいとかドラマが欠けているなどの意見も聞こえましたが、私としてはドラマ性は十分かと思います。
確かに、普通に戦争映画と言うような描き方ではないにしても、それぞれのわずかな目線や表情でかなり背景を語っていたように思えます。
一次大戦の影や若き世代とその上の世代は海で、空では見えなかった英雄たちのドラマ、そして陸ではその瞬間を生き抜きながらも、同時に小さな英雄的行動をとる人たちが映されていました。
もうひとつ、脚本部分で面白かった点。
今回の話全体の構成が、陸、海、空に分かれていることですが、単純に分かれているのではなく、3つの舞台での異なる期間を、同時に進行しつつ織り交ぜて展開する点が非常におもしろかったです。
陸での1週間。海での1日。そして空の1時間。それぞれが違う進行速度を持ちながらも、並行するという脚本。
上記のように台詞も背景説明も極端に抑えられた作品で、その上にこの時間操作が加わるので、分からないという意見が出るのも納得ですが、私としてこの作品一番のお気に入りポイントがこの脚本でした。
映画が上映されているのは約90分。それは固定された時間の、現実の流れです。しかし映画の中では時間なんて意味がないのです。
陸で生き延びる人も海で兵士を助ける市民も、ドイツ軍と交戦する飛行士も、それぞれどこかに関わりを持って映されます。
映画内の時間は自由に曲がり重なっていくわけで、それこそこの編集、構成されたメディアの最大の楽しみの一つだと思うのです。
そして何より、今作でクリストファー・ノーランは観客を信じてくれているのです。
観客は最小限の説明でも、観ながら潜在的に点をつなげ、ドラマを想像し理解していく。
空の視点で、海に民間船が浮かんでいるのが見える。そして交戦しスピットファイアはのこり2機となる。そのあとに、3機のスピットファイアが上空を飛んでいく海の視点がある。これだけでストーリーは、そして時間軸の操作も把握できます。
この人はどこから来た?この船の沈没はさっき空から見たものではないか?
繰り出されるサスペンスの中で、ノーラン監督は観客自らに考えさせ、映像という魔法を自分で編集しているような感覚を与えてくれました。
圧倒的なビジュアルだけでなく、自分の頭をこのダンケルクの海岸、海そして空に突っ込むからこその没入感だと思うのです。
戦争映画化と言われると、従来のイメージでは違うと言っていいのかもしれません。ただ、その場での生き残りと言うものをみせていく、シチュエーションスリラーと言った方が良いかも知れません。
しかし、確実に感じられるのは、人を生かすという点でその場に(時代に)居合わせた人間が必死に行動し団結するなにか熱い魂でした。ケネス・ブラナーの青い眼がうるんで、そこに祖国が見える瞬間とか、素敵です。
そんなわけで、ノーラン監督、私たちを信じてくれてありがとう。あとさ、トム・ハーディは大作出るたびに顔になんかつけさせられちゃうのねwでも眼だけで相当演技できるからすごいです。
こんなところで終わりです。それでは、また。
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