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「ブラック・ウィドウ」”Black Widow”(2021)

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「ブラック・ウィドウ」(2021)

  • 監督:ケイト・ショートランド
  • 脚本:エリック・ピアソン
  • 原案:ジャック・シェイファー、ネッド・ベンソン
  • 原作:スタン・リー、ドン・リコ、ドン・ヘック『ブラック・ウィドウ』
  • 製作:ケヴィン・ファイギ
  • 製作総指揮:ルイス・デスポジート、ヴィクトリア・アロンソ、ブラッド・ウィンダーバウム、ナイジェル・ゴステロフ、スカーレット・ヨハンソン
  • 音楽:ローン・バルフ
  • 撮影:ガブリエル・ベリスタイン
  • 編集:リー・フォルサム・ボイド、マシュー・シュミット
  • 出演:スカーレット・ヨハンソン、フローレンス・ピュー、デヴィッド・ハーバー、レイチェル・ワイズ、オルガ・キュリレンコ、レイ・ウィンストン、ウィリアム・ハート 他
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作品概要

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マーベルシネマティックユニベースにてアベンジャーズの一員として活躍したブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフのスピンオフ/プリクエルとなる作品。

「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」の直後を描く作品であり、「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」に続き、MCUのフェイズ4幕開けとなる映画になります。

監督は「ベルリン・シンドローム」などのケイト・ショートランド。彼女の長編4作品目になります。

主演はもちろんスカーレット・ヨハンソン。またナターシャの”妹”役には「ミッドサマー」「ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語」で活躍のフローレンス・ピュー。

その他”父”としては「イコライザー」などのデヴィッド・ハーバー、そして”母”役には「ロニートとエスティ 彼女たちの選択」などのレイチェル・ワイズが出演。

そもそもブラック・ウィドウの単独映画は、アベンジャーズ2012くらいから希望が多く、ハルクやホークアイと並んで期待されていましたが、実現の話はあまりありませんでした。

しかしエンドゲーム後に公開されることになり、キャラクターがエンドゲームにて死を迎えたこともあってファンは大いに喜びましたね。

しかし2020年の5月、北米では映画サマーシーズンのキックオフをするはずが、新型コロナウイルス拡大を受けての公開延期。

2020年の11月にずれた後、再度2021年の同じ時期に設定しなおされましたが、またも延期。

結局は7月劇場公開、そして「ワンダーウーマン1984」などのように、ディズニー+での同時配信になることに。

さて、マーベル映画が一切公開されなかった2020年(というか毎年2、3本やってたのが異常でした)を越えて、やっとのことでスクリーンに帰ってきましたよ。早速公開初日に観に行ってきました。

平日の昼でしたけれど、結構混んでましたね。

あ、今作もディズニーの「クルエラ」などと同様に、大手シネコンであるTOHOが興行から降りているので、割と映画館は探しておいたほうが良いかもしれません。

~あらすじ~

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ソコヴィア協定を破りアベンジャーズが決裂、世界中で追われる身となったナターシャ・ロマノフ。

逃走生活の中で、正体不明の敵の襲撃を受ける。

ナターシャの戦闘スタイルを完全にコピーし、キャプテン・アメリカのようなシールド技術を見せる敵は、ナターシャではなく彼女が受け取ったある荷物を狙っていた。

何とか敵から逃れたナターシャは、荷物の送り主、かつての”妹”に会いに行く。

そこで”姉妹”をウィドウとして鍛え上げ、世界中で諜報や暗殺活動を指揮したレッドルームがまだ存在し活動を続けていると知らされる。

バートンに救われシールドへ入り、今はアベンジャーズという家族を持ったナターシャ。

自身の過去がいまだ根を張り、今なお少女たちを自分のような暗殺兵器として洗脳訓練していると知り、すべてを清算すべく”妹”とともにかつての家族を集めに動き出す。

感想/レビュー

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まずは今作の立ち位置について考えてみますと、観る前はなぜブラック・ウィドウのスピンオフ、しかも過去を振り返るプリクエルを今になって公開し、それをフェイズ4のキックオフにするのか不思議でした。

正直なところ、フェイズ3締めくくりである「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」の後には蛇足かもと考えていましたが、今作をみて間違いなく前作から必要なピースなんだと確信しました。

エンドゲーム後の混乱した世界は、スパイダーマンと彼にのし掛かるトニー・スタークの重圧、また混沌とした時代ゆえに登場する偽りの英雄の危うさに描かれていました。

影の世界に生きるブラック・ウィドウだから描ける舞台

今回はむしろ、表面ではなくて影で絶えず戦い続けるヒーローと、過去の清算や生きることの選択を見せていきます。

そのドラマチックさを描いていくならば、まさにブラック・ウィドウが最適と思います。

まあ去っていったヒーローへの哀悼として、アイアンマンはスパイダーマン、キャップはTVドラマ「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」があると考えると、ナターシャにも一つ必要だったとも思えますが。

しかし今回のテーマのダイナミズムは素晴らしく、単純な埋め合わせピースでも、また哀悼映画に留まらない点です。

それは非常に強い女性映画であるところ。

昨今のフェミニズムにつき、MCUも「キャプテン・マーベル」を登場させ、男性社会において承認が必要ななか、それを文字通りにぶっ飛ばしました。

ただ今作はもっと、超人的な力ではないところでの逆転と反抗、また生きる上での選択を見せます。

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男性による理不尽な支配

監督は前作「ベルリン・シンドローム」で理不尽に男性により監禁、支配された若い女性を描きました。

そしてそこでの男性は、その行為自体に悪意を持っていません。

むしろ罪であることすら認識していない。

それを踏まえたとき、レッドルームという存在とドレイコフは強烈なメタファーになります。

OPの布石やアメリカでの潜入と逃走もアクションパックですが、タイトルシークエンスが今作の立ち位置を物語っています。

まるで実録映像のような人身売買、ヒューマン・トラフィッキングの映像です。重なるMalia JのSmells Like Teen Spiritがすごく良い。

ちょっとテイストが異なるくらいに悲痛でおぞましいシーンですが、ここで権力ある男性により搾取される少女たちひいては女性たちの図が示されました。

このように暗部を映し出しそこで活躍できるのも、ブラック・ウィドウだけに思えます。

今作はPG-13を指定されていますが、これもマーベルとしては異例ですね。発言や描写については確かに、精神・身体的な処置含めて映像でなくても惨たらしいものです。

そのドレイコフという男性と、”父”であるアレクセイ以外にはほぼ男性は出てきませんが、彼らに男性の滑稽さが共有されつつも、差別化があった点は評価できる点でした。

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さて、そんな闇の権力者イカレ野郎を相手に、ナターシャは個人の過去へ飛び込むミッションに出ますが、アベンジャーズのようにヒーローがたくさんいなくても、今作はキャラクターダイナミズムを炸裂させています。

全てをもっていくフローレンス・ピュー

まず、フローレンス・ピュー。惚れるしかない存在感。

もう「ミッドサマー」や「ファイティング・ファミリー」で主演張るのも良いですが、「ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語」のように主演を食っていくシーンスティーラー。

ナターシャが主役であるセンタリングは忘れませんが、とにかくエレーナが出てくると全部持っていく力があります。

アベンジャーズという家族を得たナターシャに嫉妬と寂しさを同時に感じて、だからすごく突っかかるし皮肉も言う。

姉をからかう妹としての絶妙なかわいさもありつつ、やはり一番幼く愛を欲するその繊細さと、反面表に出る攻撃性が良いですね。

特に家族初めての再会での食卓シーン。

「私には本物だった」という場面のエモーショナルさは素晴らしかった。

セリフもそうですが、ナターシャたちが言い合いを初めて家族が偽りだったといい始めてから、エレーナがやたらと酒を飲みます。

あと、セリフの途中で、フーッと息を吐く所作が入っているんですが、あの泣いてしまいそうで爆発してしまいそうなところ、息を吐くことで体面を保とうとするその細やかさが本当にすごい。

あと最後のほうで手術用におでこに線を描かれますが、わざわざ鏡でそれを消すところとか可愛らしい。

エレーナはおそらく今作でみんなに好かれるキャラクターだと思います。

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全体に家族というテーマを出し、その家族劇が楽しかった点は素敵です。

アレクセイは自分大好きな恥ずかしいお父さんで、この作品の中でもコミックリリーフ推して機能しています。

彼らのユーモアの中で、ブラック・ウィドウのヒーローとしての側面や、彼女の持つ目を背けるべきでない世界の闇を語ります。

妹に小ばかにされたヒーロー着地について、デップーのような茶化しだけかと思いましたが、ここはオリジナル6の中で唯一の女性として、人々に観られる存在としての意識が見えます。

アイアンマンやキャプテン・アメリカ、ソーらをみて、男の子たちはメカや盾、ハンマーにあこがれる。であるならば、女の子たちがあこがれる存在にならなくては。

カッコよく見えることの大切さってそこにあるんですよね。

そして子宮摘出などの処置については、効率性を求めた兵器化というかなり残酷なことですが、実際の世界にも売春や兵士育成で似たようなことがあります。

こういった点をユーモアに絡めてしまいながらもしっかりと見せていったことは好きです。

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チームケイパー物のようなスパイものの楽しさ

脚本ではちゃんとスパイものしていたところも高評価です。

アベンジャーズシリーズもどんどんと進んでいくと、超能力とかエイリアンとか、もう人間レベルの事柄の入り込む余地がなくなってきました。

ですからあくまで普通の人間(大嘘)であるナターシャの、しかも諜報員としてのスピンオフなら、地に足つけてほしいと思っていました。

そこで今回、それこそミッション:インポッシブルのIMFのように、チームとしての騙しが入るのが痛快です。

ここ重要です。

イーサンと同じく、ナターシャ一人で何とかちゃうのではダメなんです。

家族が団結するからいい。

それは、周囲の人間をもはや人間ではなくてただの駒としか思っていないドレイコフに対するカウンターです。

そしてまた、たとえ偽りの関係性であったとしても、他者を信頼することで生まれる大きな力を称賛する素晴らしいメッセージだと思いますので。

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生きることは選べることを証明するブラック・ウィドウ

未来のないナターシャの過去を掘り下げていった今作。

王道スパイものであり、家族の物語であり。そして贖罪、女性映画でもある。

いかに威張り散らし暴力をふるうとも、滑稽でちっぽけな存在でしかない男性、ドレイコフ。彼には強さはありません。

守るものも、信じるものもないから。だからこそ真の強さを持たない。

しかしナターシャは違います。少女の時から幼い妹を守ろうと行動できた彼女は、いかに痛みを受けても折れずに強くなり続けた。

たとえ新しい家族が崩壊しても、彼女は正しいことのためにまた行動する。

そんな彼女に突き動かされるように、家族は団結する。アレクセイは自分のためではほぼ役立たずでしたが、家族のため戦うとき活躍。

そしてメリーナは、内部に囚われ加担して来てしまった存在ですが、清算と贖罪のために戦う。

2人とももう自惚れでも臆病者でもない。

オールドスクールな悪の組織とスパイもの、そこにチームプライ、さらにスーパーヒーロー要素。女性の解放と家族の再生を乗せ、選択を見せていく。

初めから英雄であったわけでもなく、誇れる何かを持っていたわけでもないナターシャは、アベンジャーズでも活動の中で一番大きく変わった存在。

彼女という存在自体が、生きることは選べるのだという証明です。

自分としてはかなり好きで、満足のいく作品でした。あと、フローレンス・ピューのMCUでの今後の活躍も期待したいです。

久しぶりに映画館でマーベルを観たせいか興奮気味で長くなりました。

今回の感想は以上になります。最後まで読んでいただきありがとうございました。

ではまた。

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