「エターナルズ」(2021)
- 監督:クロエ・ジャオ
- 脚本:クロエ・ジャオ、パトリック・バーリー
- 原案:ライアン・フィルポ、マシュー・K・フィルポ
- 原作:ジャック・カービー「エターナルズ」
- 製作:ケヴィン・ファイギ、ネイト・ムーア
- 製作総指揮:ルイス・デスポジート、ヴィクトリア・アロンソ、ケヴィン・デラノイ
- 音楽:ラミン・ジャヴァディ、デイヴ・ジョーダン
- 撮影:ベン・デイヴィス
- 編集:クレイグ・ウッド、ディラン・ティチェナー
- 出演:ジェンマ・チャン・リチャード・マッデン、アンジェリーナ・ジョリー、マ・ドンソク、クメイル・ナンジアニ、バリー・コーガン、リア・マクヒュー、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ローレン・リドロフ、サルマ・ハエック 他
作品概要
「アベンジャーズ/エンドゲーム」などのマーベルスタジオフェイズ4として3作目であり、全体のMCUとしては通算26作品目となるスーパーヒーロー映画。
話はエンドゲーム後を舞台としながらも、このマーベルの世界の中でも7,000年という非常に長く壮大な歴史を持つ存在”エターナルズ”の活躍を描きます。
監督は「ノマドランド」にてアカデミー賞作品賞と監督賞を獲得したクロエ・ジャオ。
遥かな歴史の中で人類を守ってきたとされるヒーローたちを演じるのは、「クレイジー・リッチ」のジェンマ・チャン、「ロケットマン」のリチャード・マッデン、「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」のクメイル・ナンジアニに「チャイルドプレイ」のブライアン・タイリー・ヘンリー。
その他韓国の大スターマ・ドンソクとアンジェリーナ・ジョリーが最強の戦士にして互いに寄り添うエターナルズを演じ、「聖なる鹿殺し」のバリー・コーガンも。
またヒーローとしては初めて、幼い子供のスーパーヒーローにリア・マクヒュー。さらに聴覚障害を持つヒーロー役には自身もろうあ者であり「サウンド・オブ・メタル」などで活躍のローレン・リドロフが出演しています。
監督にキャストを眺めてもだいぶ時代を感じるMCU最新作。
今回は公開週末に通常字幕版での鑑賞をしてきました。IMAXマターだとは思ってのですが時間が合わなかったもので。
ちなみに自分の回はそんなに混んでいませんでした。
~あらすじ~
遥か昔の宇宙創造の時より、究極の存在であるセレスティアルズによって生み出された宇宙種族であるエターナルズは、地球を守護するものとして人類を守り導いてきた。
人間を捕食する邪悪な種ディヴィアンツを殲滅し、歴史の中に消えたエターナルズはそれぞれが人間世界に溶け込んで過ごしている。
しかしある時、絶滅したはずのディヴィアンツが再び現れた。
なんらかの脅威が起きていることを感じ取ったセルシ、イカリス、スプライトの3人はエターナルズを再集結するために元のメンバーを探し始める。
しかし、かつてリーダーであったエイジャックが襲撃を受けて殺されていた。
エイジャックは彼らを創造したセレスティアルであるアリシェムと更新できる球をセルシに残したが、そこでセルシはアリシェムから”出現の時”と告げられる。
それが何を意味するのか。地球を襲う異変から人類を守るためにエターナルズは数千年の時を経て再び動き出す。
感想/レビュー
MCUもかなりの長さになって、スケールも今作において7,000年スパン、さらに創造神だの永遠の存在だのもう壮大になっています。
しかし規模感だけがインフレしているのではなく、しっかりとアメリカンコミックという大きな注目を集める存在として、世界をけん引していることが証明されています。
思えば2018年の「ブラックパンサー」ではほとんどがアフリカ系キャストで展開され、ワカンダを現実社会に投げかけながらも、黒人の子どもたちが自分たちの物語であり自分たちのヒーローを目の当たりにした感動がありました。
そして今年の「シャン・チー/テン・リングスの伝説」はアジア人キャストをそろえながら、壮大なフェイズ4の扉を開きました。
フェイズ4として新時代を感じる多様なヒーローチーム
エターナルズという存在自体が神様みたいなヒーローたちの話ですが、顔ぶれを見るだけでも、その新時代を感じられます。
サルマ・ハエックはメキシコ系。
ワインスタインの性暴力被害にあったことでも記憶に残っていますが、何かとセクシーなメキシコの娼婦などの役柄が多かった彼女が、聡明で慈悲深いヒーローチームのリーダー。
そしてセルシを演じるジェンマ・チャン。彼女はロンドン出身ですが、香港出身の父、中国出身の母を持ちます。
それにスコットランド出身のリチャード・マッデン、アイリッシュのバリー・コーガン、パキスタン系のクメイル・ナンジアニ。
マブリーの愛称でおなじみの韓国のスター、マ・ドンソク。
アフリカ系のブライアン・タイリー・ヘンリーは同性愛者のヒーローを演じる。
アンジェリーナ・ジョリーはとびぬけて有名なスターでしょうけれど、彼女にもインディアンイロコイ族の血が流れています。
そしてヒーローというくくりではどうしても出せなかった子どもという枠にてリア・マクヒューがおり、さらにはろうあ者としてその個性のままにローレン・リドロフが出演。
ここに集うエターナルズというチーム自体が、まるでこの人類というものすべてへの賛歌のようです。
2012年に初めてスーパーヒーローが集ったとき、そこにいたのはほとんどが白人男性でしたが(もちろんそれが悪いことではないです)、MCUはそこから10年経たないうちにこのようにユニバースを広げているのです。
これだけでもエターナルズという作品が成し遂げたことは大きいのではないでしょうか。
人物のドラマにフォーカスし、壮大なスケールとバランスをとる
一方でそれだけの多様性を持ち合わせ、スケールとしても時間の長さとしても人数としても多量である今作を、クロエ・ジャオ監督はドラマチックに仕上げて見せました。
予告やキャストの発表時にこそ、人が多すぎてしかもみんな初対面になるわけで、どこまでまとまったヒーロー映画を観客に提供できるのかと不安でしたが、ここは見事な手腕です。
そのスーパーパワーを各人にある程度制限していることによって、また度々言及することによって、個性を超能力の段階でみせます。
キャストの多様性はそのまま区別のしやすさにもなっていますし、割とすっきりとしたドラマを見せているのも、飲み込みやすい点です。
このジャグリングに近いような配分のバランスが良いため、影の薄いキャラクターというのも存在しないのです。本当に難しいものだと思いますが、やってのけてしまうクロエ・ジャオ監督に脱帽。
またキャラクターの個性が人類と関わる点、人類とのかかわり方に現れる点も面白いと思います。
神話にとらえられていたり、ボリウッドが描写されること、多くの人とかかわる教師を選ぶ者、力による平穏を与える者。
それぞれを自然と定義しながらも、今作で集約されている点は「自身の存在意義を失ったとしても、自分を定義して生きていけるのか」になると思います。
漠然としすぎる人類
うまいこと指パッチンの影響を避ける設定を持ち込みつつ、エターナルズの存在の根幹を揺るがし崩す展開になる。
そこではある種目的喪失を経験し、自らが自分がどうあるのかを決めていかなければいけないわけです。
ここまでくるとある程度分かりやすい展開にはなるのですが、自分が今作でズレを感じ始めたのがまさにここでした。
争点としてはどうあるべきかになりながら、結局は人類を守るべきかアリシェムの真の目的を果たすかの2つに分かれます。
で、ここが問題なのはMCUがそもそも大きくなりすぎたというのもあるのですが、人類についてです。
キンゴの付き人であるカルーンがかろうじてその代表として出てきてはいるのですが、守るべき人類があまりに記号的です。
人類というなにか漠然としたものでしかなく、なぜそこまで人類を愛するのかが見えにくいのです。
一度は全宇宙の半分の命が消えたMCUでは、その”行為”はまだ議論できても、”結果”はあまりに薄くなりすぎたということです。
それに、一応はヴィランとして登場したディヴィアンツに関してはさすがに放棄しすぎだと言えます。
なぜ急にパワーを吸収できるようになったのかも不明ですが、彼らもまたセレスティアルの勝手な都合により生み出され殺される種族であるのです。
そこにはエターナルズと同じく悲劇が込められているのに、人型に変身していったディヴィアンツは最後あっさりと切り捨てられてしまいました。
特にこのような身勝手な都合により生死を左右される魂或る者については、しっかりと描写してあげるべきと思います。
これではなぜかエターナルズだけが、人類だけが、特別扱いになるという悪い面が強調されてしまう気がするのです。
登場したマーベルの世界に限界が来ている?
各人のドラマにまとめ上げたことや多種多様なヒーロー像など、現実社会にたいして与えている影響は確かに立派ですし、非常に意義深いものではあります。
しかし、この壮大なマーベルの世界においてエターナルズの存在や行為というものはあまりに希薄なものでした。
原爆の絶対的な否定など日本人としてぐっとくるものもあれど、上述の多様なキャストやダイバーシティそれ自体がこのスーパーヒーロー映画自体の質を高めているとはあまり思えないのです。
クロエ・ジャオ監督の描き出す人類史や美しい地球。キャストに与えられるエターナルズへの多層的なレイヤー。
見事なヒーローたちの出現ですが、現れたその世界はもはや救うとか守るとかの意義が見えにくいものになってしまっていました。
地球全体に規模を広げるほどに結構難しくなってきていると思います。これはMCUの問題。エターナルズ自体は悪くないです。
MCUというよりも単一の作品として、ヒーローチームの物語として楽しめるのかと思いますので、気になる方はぜひ劇場へ。
ということで今回の感想は以上になります。
最後までよんでいただきありがとうございます。
それではまた。
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