「あの夜、マイアミで」(2020)
- 監督:レジーナ・キング
- 脚本:ケンプ・パワーズ
- 原作:ケンプ・パワーズ『One Night in Miami』
- 製作:ジェス・ウー・カルダー、キース・カルダー、ジョディ・クライン
- 製作総指揮:レジーナ・キング、ケンプ・パワーズ、ポール・O・デイヴィス、クリス・ハーディング
- 音楽:テレンス・ブランチャード
- 撮影:タミ・レイカー
- 編集:タリク・アンウォー
- 出演:キングズリー・ベン=アディル、イーライ・ゴリー、オルディス・ホッジ、レスリー・オドム・Jr、ランス・レディック 他
「ビール・ストリートの恋人たち」でアカデミー賞助演女優賞に輝いたレジーナ・キングが、同名の舞台劇を映画化し監督デビューを果たした作品。
カシアス・クレイ、マルコムX、ジム・ブラウン、サム・クックというアメリカにおける黒人の在り方につきそれぞれの世界で大きな影響を残す伝説たちが一堂に会す夜を描き出します。
出演は、キングズリー・ベン=アディル、イーライ・ゴリー、オルディス・ホッジ、レスリー・オドム・Jr。
また「ジョン・ウィック」シリーズのランス・レディックもNOIの一員として出演しています。
レジーナ・キングは今作で製作総指揮にも参加していますね。監督としてはこれまで「THIS IS US」などTVドラマシリーズでの監督経験があるようです。
作品はトロント国際映画祭にて上映。北米では2020年暮れには公開され、日本でも年明けから配信開始とスムーズな展開になりました。
1964年、カシアス・クレイはボクシングタイトル戦にて見事勝利しチャンプとなった。
その試合には友人であり黒人差別に対し公民権運動家として活動するマルコムXの姿がある。
カシアスは試合の勝利を彼と祝いつつ、ブラック・ムスリムに改宗し、NOIに入信することを決めていた。
そのお祝いには他にも友好のあるNFL選手ジム・ブラウン、また歌手として人気スターであるサム・クックも招かれていた。
4人はカシアス祝いをするつもりだったが、マルコムXの問いかけから空気が変わる。
このアメリカで、各界においてなをあげた4人の黒人として、それぞれがどのような役割と声を持っているかを語ることになる。
レジーナ・キングの監督デビュー作として、素晴らしいスタートだと思いますし、アクター・ディレクターとして名を馳せる俳優がまた一人増えたというのが嬉しい作品です。
元々は舞台劇であるとのことで、映画的にはスケール感は小さめです。
特にホテルの一室を舞台に4人がそれぞれ語っていくという密室劇ともとれる展開がメインになりますから絵面としては地味にはなります。
しかし集められた4人の俳優の演技と、題材の熱さ、そして人物関係を映し出す演出と構成によって非常に集中して引き込まれるものになっています。
ある程度の知識を必要とはするかもしれません。
公民権運動運動とは、マルコムXの立場についてなどは、彼が割りと主軸になっていくこともあって割りと必要かもしれません。
ただこも過去の偉人がもしも一晩語り合ったらという設定もなかで、その過去をただ掘り起こして映す作品ではありません。
あまり知らなくても大丈夫だと思います。
何しろ彼らを、彼らの芸術や信念を深く研究しながら、未来の話をしているからです。
ここで非常にスマートなのは、冒頭の各シーン。
特にエンタメ界のなかで、直接的に白人社会の、白人主導のシステムの中で奮闘するジム・ブラウンとサム・クックのシーンです。
メインの未来への選択を語る会合が始まる前に、白人社会に囲われ制限された成功を見せているのです。
給仕がショーの最中に目の前を通るという扱いのサム・クック、そして偉大な選手と言いつつニグロは家に入れないと人間扱いをされないジム・ブラウン。
これが現状であり、それは1960年代の現状というだけではなく、まさに今にも仄かに残るシーンです。
この歪みと悔しさを、語りのなかではなく既にそこにある事実として示してから本題に入るわけです。
だからこそ、ここで人種差別はもう存在しないだとか、少しはマシになったとかの話を封じます。
今と地続きの1964年を見ながら、まるで今の時代のことのように4人がそれぞれの立場を語っていく。
密室劇風ですが演出も良いですね。
はじめはいわゆるオープンスペースである屋上で話が始まります。
しかし本音では語らない。
屋上は公的な場所のように、彼らは本心からはぶつからないのです。
本格的な討論が始まるのはホテルの一室ですが、同じ空間にいるのか、ついに部屋から廊下へ出ていってしまうのか。
そうした人物は一夜画面構成においてそれぞれの距離感を語ります。
また、一瞬ですが顔色を伺うカシアスのカットから、穏和にしたい人物と真っ向から戦う人物などの色分けも見せていきます。
だからこそついに4人がみんな画面に収まって、真剣に黒人の今とこれから、それぞれの持つ声について語りう瞬間が印象的です。
そして同時に、このホテルの一室、画面に4人そろうところの狭さというのも際立ちます。この伝説的な4人が集まっているのに、この世界はなんとも狭苦しい。
舞台演劇の色は隠さずに逆に利用してしまうような演出として、その狭さも空間づくりも操り、そしてそれらを支えていく素晴らしい主役4人。
それぞれがもちろんそのフィジカルな外見部分もそうですが、心や魂のレベルでこの4人を演じきっている力は大きいです。
特にキングズリー・ベン=アディルなんて攻撃的に思えながらもつごく苦痛にもだえるマルコムXを見事に体現しているなと思いました。彼は楽しいシーンでも(笑ったはいますが)なにか苦しみを感じ取れます。
これは実話ではないですが、もしもこの4人が・・・という設定に十二分に説得力のある論争になっています。
マルコムXとサム・クックはそれぞれの死がすぐそこまで迫った二人ですから、その生と未来への想いを語るとなると一番熱い展開です。
迎合せず認められる必要もなく、アメリカにおける黒人の地位を確立しようと、自分ができることをその人生をかけた伝説の4人。
レジーナ・キング監督デビューとして彼女の手腕が輝く作品。
60年代の空気を感じるプロダクションデザイン、演技。ソースの弱点も理解し逆手にとる演出の良さ。
すごく楽しめた1本です。こちら是非ご鑑賞を。
そんなわけで感想は以上になります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
それではまた。
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